その3
ガスタルからファロウの村方面に向かう街道をしばらく進んだ先に、いくらかの人が集まっていた。
「ほら、あそこだ」
馬車に乗るロバートが指をさす。御者席に座るマヤは、目を細めてそれを見た。
「ファロウへの道が、あそこで途切れてるって話は本当なんですか? とてもそんな風には見えませんけれど」
「近くに来てみりゃわかるよ。みんなあそこで立ち往生を食らってるんだ。まあ、今日びファロウにまで行く物好きなんて滅多にいないけどさ」
すぐ後ろに立っているミランダが言った。
ロバートの話によると、この街道が途切れてしまったのは数日前とのことだった。
ハヤトとマヤはすぐに直感した。ベルスタでの魔王ソルテスの復活が、何か関わっているのかもしれない。
ハヤトたちは馬車を止め、人が何人か集まっている場所へと歩いた。
ロバートが彼らにたずねた。
「どうだい、調子は」
「どうもこうもない。全く、変わる兆しすら見せないよ。もう俺たちは別の道を行くことに決めた。あんたらもあきらめたほうがいい」
先客たちは引き返していった。マヤは、さっきまで彼らがいた場所を見た。
ただ、街道の景色が広がっている。特に道が断絶されているわけでもなく、ふつうに通ることができてしまいそうだ。
マヤはふと、景色の先へと歩いて行こうとした。
「お、おい!」
ロバートがあわててマヤの手を掴んだ。マヤが歩くのをやめると、目の前の景色がぐらぐらとゆがんだ。
「こ、これは障壁……?」
「ご名答」
ロバートが石ころを拾い上げて、道の先へと投げる。
石ころは空中で空気のはじける音とともにはじき返され、地面に落ちた。
「もうずっとこんな調子でな。手の施しようがないんだ」
「どうしてこんなところに障壁が作られたのかしら……ねえハヤト君」
ハヤトは頷いて剣を抜いた。
「ああ、わかってる。『蒼きつるぎ』だろ?」
「ええ。前回、ルーちゃんのいた屋敷に繋がる障壁を壊せたのも、おそらくハヤト君の『蒼きつるぎ』が影響していたんだと思うわ。やってみてくれる?」
ロバートとミランダは目をかっと開いた。
「『蒼きつるぎ』だって!? 君は『蒼きつるぎ』の勇者だったのか?」
ハヤトはその反応を見て、ちょっと得意げにしてみせた。
「実はそうなんですよ。まあ見ていてください」
ハヤトは剣を構えて叫んだ。
「剣よ! 俺に力を貸せっ!」
だが、なにも起こらない。ハヤトはもう一度同じように言ったが、剣はうんともすんとも言わない。
沈黙。やがて、ロバートが言った。
「なんだ、たちの悪い冗談ならよしてくれ」
「ち、違うんですっ! 本当はここでブワーっと剣が出るはずなんですけど……ちくしょう、どうして出ないんだっ!?」
ハヤトは顔から火が出るような思いだった。
マヤも不思議そうにしている。
「うーん、どうやらまだ自由に出せるって訳じゃないみたいね……。この間はすごく自然に出してたから、こつを掴んだのかと思ったけど。しょうがない、ルーちゃん! ちょっと手伝って。『ウォール』使えるわよね? 障壁なら二人でなんとかなるかもしれないわ」
「了解なの!」
ルーが元気に飛び出してきた。