その7(終)
外に出たマヤとルーは、屋敷がねじり斬られる様子をただ見ていたが、周りの景色が歪みだしたのに気がついた。
「どういうこと!?」
「障壁で作った世界の“魔力”が、なくなるの……」
屋敷が崩壊を始める。ハヤトと、木の根のようになった剣が空中に残っていた。
男の声がかすれるように聞こえた。
『こ、こんな……ことが』
「あんた自身が、屋敷の形をしたモンスターだったってワケだな」
剣の姿が元に戻り、ハヤトは着地する。すぐにマヤが駆け寄った。
「ハヤト君、この場所はさっきの屋敷が作った世界らしいの! 急いで脱出よ!」
見ると、景色のそこかしこに亀裂が入っていた。
「で、でも出口はどこにあるんだ!?」
「こっちなの」
ルーが声を上げて指をさした。亀裂の中に、少し色の違う空間があった。
『ま、まてルー……』
屋敷の声が聞こえた。
『人間、どもに……ついていって……何になる……。……だからわしに金をよこせ……金を……さもなくば殺すぞ……』
ルーははっとしながら屋敷をしばらく見ていたが、ハヤトがその頭にぽんと手を乗せた。
「ルーちゃん。やりたいことを、やりな」
ルーはハヤトを見上げた。
彼女は頷くと、さっきの色が違う障壁の亀裂に向かって駆けだした。
「えーい!」
ルーが障壁を蹴ると、空気がはじける音とともに亀裂が砕け、さっきまでいた森が姿を現した。ルーは外へと飛び出した。ハヤトたちもそれに続く。
『ルー、ルー……か、ね』
そのせりふを最後に、屋敷のモンスターは息絶え、障壁の世界は閉じられた。
「でも、どうしてあの屋敷はお金をほしがったんだろう。屋敷なんだから、金なんていらないはずだろ」
たき火にあたりながら、ハヤトが言った。マヤが薪を投げ入れた。
「断言はできないけど、お金って、人の“魔力”を宿しやすいの。欲望に直結するものだし、いろいろな人の手に渡るからね。きっとあの屋敷は、それをエネルギーにしていたのかもしれないわ」
隣にはルーが座っている。
「それで、ルーちゃんはこれから、どうするんだ?」
ルーはしばらく答えないでいたが、耳をぴくぴくさせながら立ち上がった。
「ルーは……」
彼女はハヤトに向かってぽんと飛び、彼に抱きついた。
「ルーは、ハヤトと子作りしたいの!」
「へっ!?」
ハヤトとマヤは、同時に言った。
【次回予告】
少年は自分の可能性と、むき出しの欲望に出会う。
順調に、順調に、運命は進んでいく。
次回「肉食系お姉さんと謎の障壁」
ご期待下さい。