その6
ハヤトの持っていた鋼鉄製の剣が、青い光を伴ってみるみるうちに姿を変えていく。
ルーはぽかんと口をあけた。
『なっ! なんだっ!? 何が起こっている!』
謎の声は動揺を隠せなかったようだった。
「この世界にも慣れてきたところだ、説明してやるよ。こいつは悪しきものを破壊する剣……『蒼きつるぎ』って言うらしいぜ」
ハヤトは幅広の刀身を持つ、「蒼きつるぎ」をぶんと振った。
『「蒼きつるぎ」だと! 悪名高いあの剣が復活したというのか!?』
「そうだよ。マヤ。ルーちゃんを連れて外に出てくれ」
「こ、この子も連れて行くの?」
困惑するマヤをよそに、ハヤトは笑顔で頷いた。
「ああ、頼むよ。ぜんぶ、ぶっこわすから」
『ぶっこわす!? 壊すと言ったのか!? 人間風情が笑わせてくれる。強大な“魔力”で囲われたこの館が、人間なんぞに……』
「笑ってろよ。剣よ! 俺に力を貸せ!」
ハヤトが気合いを入れると、剣が呼応するかのように輝きを増す。マヤに抱えられたルーは、それをぼおっと眺めていた。
「すごい“魔力”なの」
剣の刀身が巨大化し、ドラゴンを斬った時と同じ大剣へと姿を変えた。
「あんたが何者かは知らねえし、どこにいるかもわかんねえけど……確かなことがある。あんたが少女をこき使うひどい奴だってことと、この屋敷の柱を妙に大事にしているってことのふたつだ」
『き、きさまっ!』
ハヤトは、周りに立っている柱をいくつか見やる。
柱から“魔力”吹き出て輝き出し、障壁のようなものが作られた。
かと思えば、皿やナイフ、ろうそく台など、家具と思われるものがハヤトへと向かって飛んできた。
彼は剣を一薙ぎして、それらを破壊した。
「やっぱね。読めたぜ」
『わかったところでわしの魔法障壁が破れるはずがない! やれるものならやってみよ!』
ハヤトは両手に抱えた剣を床に思い切り突き刺し、叫んだ。
「剣よ! 全部ぶった斬れ!」
瞬間、「蒼きつるぎ」の刀身が次々に枝分かれし、四方八方へと向かった。
刀身は障壁を軽々と突き破って柱に突き刺さる。
男の悲鳴が響いた。
「まだ終わりじゃねえぞっ!」
ハヤトの体が浮かぶ。ぐぐぐぐ、と、剣がねじれる。
屋敷の中がきしみながら、だんだんゆがんでいく。
『や、やめろおっ!』
「吹き飛べっ!」
「蒼きつるぎ」とハヤトは、そのまま猛烈な勢いでぐるりと一回転する。
屋敷に無数の切れ目が入り、飛散した。