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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第4話「ケモ耳少女は子作りしたいの」
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その5

『ルー! きさま、どこに行っていた!』


 ハヤトたちはルーが入っていった部屋を覗いていた。怒鳴り声は部屋の奥から聞こえる。ドアが少ししか開いていないので、声の主が誰なのかは見ることができない。


「またお金をとってきたの」

『おう、そうか。よしよし』

「でも、人がきたの」

『なに!? まさか障壁を壊したのか?』

「わからないの」

『人間がここまで来られるわけなかろう。まさかルー、おまえがここに連れてきたんじゃないのか』

「ち、違うの!」


 ルーが声の主におびえているのがよくわかった。

 一体、何者なのだろう。


『ルーよ、わかってるんだろうな。わしは、お前みたいなちんちくりんがどうなってもかまいやしないんだ。だがお前の一族は、それじゃ困るんだよな?』

「そうなの。ルーの一族は、ルーが最後なの……血を絶やしちゃいけないって、おばあちゃんに言われたの」

『でも、お前みたいな奴が人間の世界に入っても、生きていける訳がない。だって人間は怖いからな。お前なんて取って食べてしまうぞ。だからこの屋敷でわしに使われているままなのが、一番なのだ。わかったな?』

「……うん」

『お前が今後も金を盗んで来てくれるなら、わしはお前を見放さない。だがお前がそれをやめるというのなら、わしはお前のことなんてどうでもよくなるし、殺すかもしれない。よし、今夜は新しい条件を出そう。その人間たちを殺してしまえ。殺せばお前の命を保証しよう』


 ルーは少しだけ困惑した表情を浮かべた。


「……殺すの?」

『当然だ。いつか覚えさせるつもりでいた。いい機会だろう』

「殺す……」

『文句があるのか? ならばお前を殺すまでだ』

「……わかったの」


 ハヤトは思った。むちゃくちゃだ。

 私利私欲のためにあんな小さな子を利用するなんて。

 横で話を聞いていたマヤも同じ気持ちのようだった。彼女はドアに足のうらをつけて、思い切り蹴り飛ばした。


「ちょっとあんた! さっきから話を聞いてみれば……なんてド畜生のくそったれなの! そこになおりなさい!」


 だが、マヤはそのまま硬直した。

 部屋にはルー一人しかいなかったのである。彼女は驚いた表情でこちらを見ている。


『ちっ、人間め。本当に迷い込んできやがったのか』


 だが、先ほどの声が聞こえる。マヤは辺りを見回しながら剣を構えた。


「姿を現しなさい!」

『さあルー、この人間たちを殺せ! モンスターは人間を殺すものだ。思い切りやってみろ』

「……わかったの」


 ルーは何もない空中に向かって頷き、両手を外に向けてつきだした。“魔力”が増幅していく。彼女の周りに風がふき、フードが脱げた。


「あっ……!」


 ハヤトは声をあげた。

 ルーの栗色の髪の中に、動物のような黒い三角耳が生えている。


「行くの……『エッジ』!」


 ルーの手元から緑色の“魔力”の塊のようなものが現れた。彼女はそれを投擲する。


 塊は空中で形を変え、ブーメラン状になる。

 ハヤトは身構えたが、マヤに突き飛ばされるようにして倒れ込んだ。 

 直後、後方のドア付近がすぱすぱと斬れ、その場に飛散した。


「ハヤト君、『エッジ』は“魔力”を刃にする魔法よ! 体で受けたらまっぷたつになるわ」

「ま、まじ……?」


 ハヤトたちが起きあがると、また声が聞こえた。


『おいルー! 何をやっている! 館に傷をつけるんじゃない』

「ごめんなさいなの」

『まあいい。確実に追いつめろ。だが柱に注意するんだ。つぎ、柱をやったらお前を殺す』

「気をつけるの」


 ルーはもう一度「エッジ」の詠唱を始める。マヤとハヤトは部屋を飛び出した。

 今度は踊り場付近の手すりがバラバラになって吹き飛んだ。

 

「なんて“魔力”なの……? 『エッジ』をここまで使いこなすなんて、ただ者じゃないわ。ハヤト君、いったん退きましょう! この屋敷、不気味だわ!」

 マヤはハヤトの手を取ったが、ハヤトは逃げようとしなかった。

「いや、待ってくれ」

「どうして!?」

「あのルーって子……なんだか辛そうに攻撃してる。きっと本当はこんなこと、やりたくないんだよ」

「それは、そうかもしれないけど!」


 ハヤトは、剣の柄を強く握った。


「スッゲーわかるんだよ……楽しくもないことをやらされるってのは、なんというか本当にむなしくて、たまに自分が一体何者なのかわからなくなって、不安で……でも結局、何も変えられずに、続けるしかねえんだ」

「ハ、ハヤト君……?」

「でもそうじゃないんだよ。変えたいんだ。本当は、変えてみたいんだよ。ただそれがちょっと不安なだけで! 助けてくれるって人が一人でもいたら、自分の世界は変えられるかもしれないんだ」


 ルーが部屋を出て、こちらに歩いてくる。


『さあルー、やれ!』


 例の声が、彼女をけしかける。

 ルーは少し躊躇しているが、もう一度同じことを言われ、魔法の詠唱に入った。


「ルーちゃんよ」


 ハヤトは彼女の前に立ちふさがった。

 ルーは驚いたように耳をぴんと立てて彼を見た。


「つまんねーだろ、それ」

「……」

「やめようぜ。お金とるのも、人を殺すのも。本当はやりたくないんだろ?」

「……でもやらないと、殺されるの。人間はルーを食べるから怖いの」

『ルー! 人間の言うことに耳を貸すな!』

「黙れよ!」


 ハヤトは叫んだ。


「なあルーちゃん、人間はそんなことしないよ。確かに悪い奴もいるかもしれないけど……君みたいな子を食べたりなんてしないさ」


 ルーはハヤトの目を見た。やがて、詠唱を止めた。


「じゃあもう一度聞くぜ。……やりたく、ねーんだよな?」


 ルーは、表情を変えぬまま、ちょっぴり頷いた。

 ハヤトはにっと笑った。


「だったら、俺でよければ協力するぜ」


 ハヤトの瞳が蒼く光った。

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