その4
三階建てのアパートくらいだろうか。
屋敷はさっきまでの場所よりも鬱蒼とした森の中にたたずんでいた。
気のせいか、空が少し明るい気がする。
「なんなんだよ、このボロ屋敷は」
「どうやらここが狼さんのねぐら、ってことみたいね。どうして障壁がとけたのかはわからないけど、泥棒を捕まえるにはここに入るしかないみたい」
「ちょ、ちょっとふつうじゃねえぞ」
「なんだかあなたはそればっかりね」
マヤはずかずかと歩いていき、ばんとドアを開いた。
明かりの類は全くついていないが、多少、何かの気配を感じる。少し先に広がる幅広の階段が不気味である。
二人が辺りを見回しながら屋敷に入っていくと、どこからともなく声が聞こえた。
「どうして?」
おびえた感じの、子どもの声だった。
「どうしてあの障壁を破れたの」
「もしかしてさっきの狼か……?」
ハヤトがたずねると、階段からひとりの少女が降りてきた。だぼっとしたフードつきのローブを羽織っている。年のころは、見たところ十歳前後だろうか。
少女は財布を手に持っていた。
マヤはそれを見て声を上げた。
「あっ、私の財布! あなたが狼をけしかけて盗んだのね!?」
少女はぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい。でも、こうしないと生きていけないの。これは、譲ってほしいの」
そう言って少女は財布を後ろ手に隠してしまった。
マヤはそれを取り返そうとしたが、すぐにやめた。少女は無表情だが、その様子が奇妙なほど必死だったからだ。
「何か、理由があるのね? 全部はダメだけど……ちょっとくらいなら、分けてもいいわよ」
少女は首をふる。
「ちょっとじゃ……だめなの。ルー、怒られるの」
「でも、私たちはそれがないと困るの。悪いけど、そんなことを言う欲張りさんには何もあげられないわ」
ルーと名乗った少女はそれを聞くと、少し悲しげに目をふせた。
「マヤ……この子、何か事情があるんじゃないのか?」
「でも、それを解決してあげられるだけの余裕は、私たちにはないわ。どちらにせよ、この子がお金を盗んだのは事実なんだから……」
『ルー! ルー・アビントン! いるのか!』
その時、上の部屋から男性の怒鳴り声が聞こえた。
ルーはそれを聞くと、びくんと体をはねさせて階段をのぼっていった。
「あっ! ちょっと待ってよ!」
ハヤトたちはそれを追う。