その1
終業のチャイムが鳴った。
「今日の部分は来週のテストに出るからな。心しておけ」
教師は教科書を教壇に叩きながら言った。彼女の視線は、右端の席へと注がれた。
「おい、聞いているのか」
教卓に突っ伏している青年に、その様子はない。教師は、ため息をついて頭をかいた。
「まったく、しょうがない奴だ。まあいい。ホームルームは省略。みんな気をつけて帰るように」
教師が教室から出て行き、生徒たちは帰り支度を始める。青年はようやくのびをして起き出すと、かばんに教科書類を詰め始めた。彼は忘れ物がないことを確認し、席を立った。
「ちょっと待ちな」
そこに、ぬっと一人の女子生徒が現れた。身長は青年とほぼ同じ。気の強そうな垂れ目が、青年に批難の目を向けていた。
青年は、けだるそうに言った。
「俺、もう帰るんだけど。何か用か」
彼女はそれを聞くや否や、床を蹴って飛び上がり、青年にドロップキックを見舞った。
「帰るんだけど、じゃない! あんた、また部活サボる気かい!」
青年はずっこけたまま言った。
「またそれか。俺はもうやらないって……」
「ふざけんな!」
彼女は青年の言葉を遮りながら、その頬に拳を浴びせた。
「あんたが来なきゃどうにもならないんだよ! いいから、さっさと来な、ロバートッ!」
「殴るこたあねえだろ!?」
「ホラ、早くする!」
「仕方ないな。今日だけだぞミランダ」
青年・ロバートは仕方なく、同じクラスのミランダに連れられて教室を出た。
二人が廊下に出ると、一人の男が目の前に立っていた。
「やあ、二人とも。奇遇だねえ」
男はさわやかに言ったが、ミランダはそれを無視して歩いていく。
「え、ちょっと。ガン無視!? 今、僕、確かに話しかけたよね!?」
ロバートは彼を笑った。
「お前も懲りないなあ、ビンス。ミランダは今、部活に燃えてるから無駄だって。なあ、暇なら今からゲーセン行かないか?」
「悪くないね。ミランダにもシカトされたことだし、一緒にクイズゲームでもしようか。一つの席に座って、二人で答えを探そう」
「カップルか」
「じゃあ君が格ゲーで対戦するのを後ろから応援するよ」
「カップルか!」
「じゃあクレーンゲームでぬいぐるみ取ってくれよ」
「カップルかよ!」
「かわいいクマさんのやつね。同じ奴を二つ取って分けよう」
「こいつ気持ち悪い!」
たかたかたか、と廊下を走る音が聞こえたあと、ビンスはミランダに蹴りとばされた。
「いつまでやってんだ! あんたも部活に来るんだよ、ビンス!」
「やっぱり、そうなる?」
三人が一階に降りると、二人の少女がそこに現れた。
「あっ、お姉ちゃん!」
「ようコリン」
コリンは笑顔でロバートを見やる。
「ロバート先輩、今日は捕まえられたんだね」
「まあな。それで、この子は?」
コリンは上背の高い少女を前に押しやった。
「前に話した、同じクラスのシェリル。部活に入ってくれるってさ」
「えっ、マジで!?」
ミランダはシェリルに大声で聞いた。
周囲の視線を集めてしまって、シェリルは大いに慌てていたが、恥ずかしげに口を開いた。
「は……はい。兄に話したら『ミランダの頼みなら入ってやれ』と言われて……」
「あ、そっか。ロック先生の妹さんなんだよね。私はあの人に育てられたようなもんなんだ。あとでよろしく言っておいて。これから、よろしく」
「はい!」
ロバートとビンスは、彼女をしげしげと眺めている。
「おっぱいでかいね」
「だな、コリンちゃんと同学年とは思えん。あの子はほとんどまな板みたいなもんだからな……どうしてこんな悲しい違いが生まれてしまうのか、不思議でならない」
「ミランダお姉ちゃん。あとでこの二人ちょっと貸して」
「コリン、その時はアタシも手伝うから言いな」
五人は体育館に向かった。




