その6
二人が剣を付き合わせたところで、「時止め」が解除される。
隼人がたたき壊した城壁の残骸が、そこかしこに散らばった。
「邪魔」
唯はその一言だけで、それらの存在をすべて「破壊」した。
隼人が床を踏み切って攻撃に出た。
「『蒼きつるぎ』ッ! このバカな妹を止めるまで、最後まで付き合ってくれ!」
「『ゼロ』に意志はないよ、お兄ちゃん。『これ』は、単なる思念の集まり。だからそんな風に言ったからって、強くなることはないの」
二人の周囲数キロが、波を起こすようにして猛烈な勢いで爆発を始める。
互いの「完全無詠唱」による魔法がぶつかり合い、相殺しあっているのである。
「使い方は簡単よ。従わせればいい。『紅き』――」
唯の持つ「ゼロ」が剣の形であることをやめ、“魔力”の塊となって縦方向に伸び始める。
「『槍』!」
隼人はすんでのところでその突きをかわしたが、「鎧」の肩部分が弾け飛んだ。「紅き槍」は既に、姿を変えている。
「『斧』!」
「スポット」の空間が、大きく縦に割れる。
隼人は宙を飛んで避けた。
「はい、逃げても無駄。『鞭』!」
数百本に枝分かれした「紅き鞭」が、「グローボ」と隼人の足を掴む。
「その見苦しい『球』を破壊!」
「グローボ」は全て鞭に縛り上げられ、割れるようにして消え去ってゆく。隼人の体は地へと叩き付けられた。
唯は、攻撃の手を緩めない。
「『ナイフ』」
「紅きナイフ」が次々と飛び、隼人の体に突き刺さってゆく。隼人は大声を上げながらも立ち上がり、地に剣を突き立てて姿を消す。
唯は、兄を嘲笑した。
「パクりはダメだよお兄ちゃん。『時止め』のシステムを破壊」
目の前に、「つるぎ」を振りかぶっている隼人が現れる。
隼人は、やはりと思った。
確かに、唯と自分の能力は同じものだ。
だが、先ほどまでに比べて、その力の差が、どんどん開いている。
本気か、そうでないかなどというレベルでは、ない。
「くっ……!」
「次はその『鎧』だッ! 『銃』!」
唯は「紅き銃」の引き金を引く。
弾丸は「鎧」を突き破り、隼人の体へと届いた。
「ぐああッ!」
「邪魔なんだよ! 私のお兄ちゃんにこんなものを着せやがって! ミランダ! てめえは後で生き返らせて、もう一回殺すからな!」
銃弾が次々と「鎧」をはがしてゆく。
隼人は「グラスプライン」の布で障壁を張った。
唯はそれを見て、いらついた様子で「銃」を大きな「鋏」に変えた。
「私の世界にいたコリンは、もっといい子だった!」
すぱん、とあっけなくまっぷたつにされた布の先に、隼人はいなかった。
唯はため息をついて、「紅き弓矢」を上空に放つ。
「知覚できなくても、いるってことがわかっていたら無駄じゃん! グランお兄ちゃんの方は、もっとうまくそれを使ってたよ」
矢に貫かれた隼人が、再び倒れる。
隼人は確信した。
「やっぱり、そういうことなのか……!」
「そう。そういうことだよ、お兄ちゃん」
唯は再び、「レッド・ゼロ」を「紅きやいば」へと戻し、右手に掴む。
「時間切れ――。お兄ちゃんの分の『レッド・ゼロ』が、覚醒したの」
左手には、全く同型の剣が握られていた。




