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イモータル・マインド  作者: んきゅ
最終話「史上最大の兄妹喧嘩」
204/212

その4

「そろそろ、いいかな」


 ソルテスが剣を肩に乗せる。自分がよくする仕草にそっくりだと、ハヤトは思った。


「飽きちゃったからさ……私の本気、見せてあげるよ」


 言い終わった瞬間、既にソルテスの姿はそこになかった。

 視界から、一瞬にして消えたのである。


「ッ!?」


 ハヤトがそれに反応した時、自分の背後から、何かが飛んで来て目の前にぼとりと落ちた。


 見慣れていたものだったが、違和感があった。

 こんなものが、こんな角度で見えるはずがないと、ハヤトは思った。

 斬り落とされた自分の右腕と、その手に握られた「蒼きつるぎ」を見ながら、彼はどうしてか冷静に、そう思った。


「うあああああああッ!」


 体から鮮血が吹き出し、痛みに声を上げた頃には、同じようにして左腕が彼の目の前に落ちた。


「これで、剣は握れないね」


 いつの間にか、ソルテスがさっきと同じ場所に立っていた。

 その剣には、血がべっとりとついて滴っていた。


「次で確実に、殺すよ」


 ソルテスが、再び消える。

 ハヤトは両腕を無くしたことでバランスを崩し、倒れそうになっていた。



 だが。ここで倒れる訳にはいかない。



『そうなの! ハヤトはこの戦いに勝って! ルーと結婚するの!』



 彼がぎらりと見開いた蒼い両眼に、時計の文字盤が浮かぶ。

 針がぐるぐると回転を始め、ハヤトは見た。 


 自分の背に「紅きやいば」を突き立て、大笑いするソルテスを。


 ハヤトは「グローボ」を倒れかかる体に乗せ、勢いのまま前方に飛ばした。

 ソルテスの突きが、空を斬る。


 ハヤトは空中で「グラスプライン」を発動させ、自分の両腕をあるべき場所へと縫いつけた。

 そんな中でも、未来を見る。

 今度は、下だ。


 「蒼きつるぎ」と「紅きやいば」が再度ぶつかりあった。


「……見えているっていうの!?」

「まあな!」


 そうは言ったが、ソルテスが何をしているのか、ハヤトにはまったく理解できていない。

 だが、結果は「視える」。


 二人の剣が超高速でぶつかりあう。その度に強烈な振動を伴った“魔力”の爆発が起こる。

 ソルテスは少しばかり、その顔をゆがめた。


「気に入らない!」

「もう種切れか!?」


 ソルテスは明確な怒りを表情にすると、再びその場から姿を消す。


 ハヤトはなんとなく感づく。おそらく単なるスピードによるものではない。もっと何か、大きな力を活用した――。


 思考はそこで途切れた。ルーの能力で未来が見えたのである。

 ハヤトはぎょっとしながら上方を見上げた。


「マジかよ!?」


 視界を覆い尽くすほど、巨大な岩の壁。

 王都ベルスタの、城壁だ。


「死ねえええッ!」


 ソルテスは城壁をハヤトに投げつける。

 ハヤトは雄叫びを上げながら、その体を次々に分身させる。

 三百本ほどの蒼い剣に、同色の炎が灯った。


「『火遁・蒼炎牙そうえんが!』」

『隼人。このくらいは、切り抜けてみせろ。お前が――君が、勇者だというのなら!』

「わかってますよ、先生ッ!」


 ハヤトたちが刀身を次々に城壁へとぶつける。

 城壁が燃えながら、勢いよく吹き飛んでいく。

 ソルテスの姿はない。


 その瞬間、ハヤトはようやくソルテスの攻撃の正体に気が付いた。


「『蒼きつるぎ』! 周囲の『時間の流れ』を破壊ッ!」


 ばらばらになって空を散っていた城壁が、ぴたりと止まる。


 こちらに向かって剣を振りかぶっているソルテスが、目の前に見えた。


「遅い!」


 ソルテスは、剣を振り切る。ハヤトの体が両断された。

 彼女はにたりと笑って追撃を加えようとしたが、呆れたような顔をしてそれをやめた。


「お兄ちゃん、つまらないまねはやめて」

「つまらなくはねえ。仲間からもらった、幻術だ」


 斬られたハヤトの体がぱっと消える。

 背後に立っていた本物の彼は、「蒼きつるぎ」を肩にとんと乗せた。


「時を止める、か。まるで昔のバトル漫画だな」

「そうね。私の能力は、だいたいがバトル漫画のマネだよ。お兄ちゃんには通じなくて当然かもね」

「その能力を最初に使った奴は、今みたいに相手に同じ能力を使われて負けたんだぜ」

「あれはバカみたいに油断していたからでしょ。相手が成長していることを認めながら、勝った気になって高笑いしちゃって、間抜けだわ」

「まあ、確かにな……」


 そんな会話が自然にできてしまって、ハヤトは改めて悲しくなった。

 紛れもない。彼女はずっと一緒に暮らしてきた妹、折笠唯だ。


 しかし彼はそこで、言いようもない違和感に再びとらわれた。

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