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イモータル・マインド  作者: んきゅ
最終話「史上最大の兄妹喧嘩」
202/212

その2

 勇者と魔王が、とうとう対面した。

 お互い言葉が出てこなかったが、しばらくして勇者が口火を切った。


「ソルテス。お前は間違っている。だから、止めに来た」


 「ソルテス」。

 そう呼ばれて、魔王は少しだけ、寂しげにした。


「お兄ちゃん、グランたちは。みんなは」


 勇者は目を伏せとても言いにくそうにしていたが、やがて彼女を見た。


「全員、死んだよ。勇者の仲間も、魔王軍も。みんな死んだ。俺とお前以外、もう残っていない」

「……本当に?」

「ああ。だが、戦いはまだ終わっていない。世界が崩壊するまであと何時間あるのか知らねえけど……お前が、魔王が残っている。それと、勇者もな」

「お兄ちゃん」


 魔王の口調は、奇妙なほど明るかった。


「お兄ちゃん、もう遅いの。教えてあげるよ。あと二時間。私の『レッド・ゼロ』が覚醒するまで、あと二時間残っている。けれど、もう世界同士がぶつかりあうのは避けられない。もうとっくに、世界は重なり合い始めている。あなたには見えないかもしれないけれど、二つの世界は崩壊をはじめているの。たぶん、ここ以外はもうほとんどなくなっていると思う」

「それでも!」


 勇者は「蒼きつるぎ」を構えた。


「それでも俺は、お前を止める! それが兄としての役目だから! 俺は間違っていることを、間違っていると……お前に当然のことを言いに来たんだ!」


 魔王はそれを聞いて、ほんの少しだけ、口角を上げた。


「……話し合いじゃ、もうどうにもならないみたいだね」


 彼女は「紅きやいば」を呼び出した。


「やろうよ。兄妹喧嘩」

「もうこれはただの喧嘩なんかじゃねえ。お前が最初に言ったことだろう。これからやるのは、世界をかけた殺し合いだッ!」


 勇者ハヤトが、剣を振りかぶって地を蹴る。

 魔王ソルテスはその一撃を、剣で受け止めた。


「行くぞ、ソルテスッ!」

「あっはっはっはっはっは! 来なよお兄ちゃんッ! 言っとくけど、私は強いよ!」

「そんなのはもう、関係ねえんだ! 俺はお前を止める、ただそれだけなんだよッ!」


 ハヤトが叫んだ瞬間、彼の足下から大量の「グローボ」が浮かびあがった。

 彼はその一つに足をかけ、瞬時に消え去って加速を始める。

 ぎゅん、と「グローボ」が四方八方に展開される。


「リブレの『カルチャーレ・グローボ』。お兄ちゃん、正気? その技が私に通用すると思ってるの? バカみたい」


 言いながらもソルテスは左手を外に向ける。

 一瞬にしてドラゴン数十体が、その場に現れた。

 が、やはり次の瞬間には全て細切れになっていた。


 ソルテスは少しばかり、顔をこわばらせた。


「……速いね」

「おせえッ!」


 高い金属音。

 ハヤトはソルテスの背後を狙ったが、彼女はそれを読んで、自分の背中に「やいば」を向けていた。


 刹那の間を置いて、衝撃波が起こる。

 二人の耳の奥に、どんという腹に響く音がつっこまれる。


「今度は私の番!」


 ソルテスが剣をなぐと、ハヤトの体が弾かれる。

 着地点に合わせ、ソルテスは“魔力”を練った。


「『レッド・インパクト』!」


 巨大な紅い“魔力”の玉がその手から発射される。

 ハヤトは即座に判断する。

 判断せざるを得ない。


 “魔力”が、けた違いに高い。

 これが直撃すれば、例え今の状態でも一撃で死ぬ。


 ハヤトは背後に配していた「グローボ」を踏み、ソルテスの魔法を避ける。

 だが、ソルテスは既にそちらに手を向けていた。


「『ロート・シュルテン』!」


 紅いレーザーが照射される。

 ハヤトは歯をぎりとかんで、空中を「空踏み」で切り返した。

 その際に、体勢を崩した。

 ソルテスはその隙を逃さない。


「『エリュトロン・エクディキス』ッ!」


 三又に別れた“魔力”の玉が弾き出され、回転しながら収縮し、ハヤトの背に向かう。


 ハヤトは思った。

 “魔力”を練る暇すらない。

 避けきれない――。


『まだだ!』


 その時、頭の中に声が聞こえた。うんざりするほど聞き慣れた声だった。


『諦めんな、ハヤト! アタシの力を使えッ!』

「ミランダさん!?」


 ハヤトがそう言った時には、ソルテスの魔法が彼に直撃し、爆発を起こした。

 ソルテスはそれを見て大笑いした。


「あっはっはっはっはっは! お兄ちゃん、もう! 弱すぎるよ! まだ二百段階くらい強い魔法があったのにい!」

「そうか。じゃあ全部やってみろよ。受け止めてやるから」


 返事が返ってきたので、さすがのソルテスも笑うのをやめた。


 煙の中から現れたハヤトの体には、白銀色の鎧が装着されていた。


「……なによ、それ……」

「勇者の、鎧だよ。お前だってよく知ってるだろ。魔王には用意されてねえ、最強装備だ」


 ソルテスは少々不機嫌になったようだった。

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