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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第21話「信じるもののために」
200/212

その8(終)

 ハヤトは「グローボ」に乗りながら、魔王軍のナンバー2が消えていくのを見ていた。

 地面がはがれ、再び海が見えてくる。

 もはや死体の場所はわからないが、仲間たちもきっと、この地と共に海へと落ちてゆくのだろう。

 ハヤトは彼女たちの顔を思い浮かべ、流れそうになる涙をぐっとこらえた。


 この戦いはまだ、終わっていない。

 敵はあとひとり、残っている。


「そうだ……マヤ、どこだ!?」


 最後の仲間の名を呼ぶ。彼女のことだから「翼」の能力ですぐに戻って来てくれると思っていたが、その姿が見えない。

 嫌な予感はすぐに的中した。彼女は地面と一緒に海へと落ちていたのである。

 ハヤトは「グローボ」を蹴り、彼女を抱き留めた。


「マヤ! 大丈夫か――」


 ハヤトは言い切ることができなかった。

 マヤは既に、息も絶え絶えといった具合であった。彼女の“魔力”は既に、尽きようとしていた。それは死を意味する。


「どうしてだ! 確かにダメージは負っていたけど、さっきまでは……!」


 そこで彼は、思い出した。

 マヤは確かに、グランに一撃を加えた。

 彼とすれ違いざまに、自分が攻撃するチャンスを作ってくれた。


 その時、グランから攻撃を受けたのだ。彼女は、グランと刺し違えになってまで、ハヤトに攻撃の機会を託したのだ。


「ごめん……。にいさんの攻撃、よけきれなくて……」

「しゃべるな、マヤ! 今、回復してやるから!」


 ハヤトはすぐに、マヤに教わった回復魔法をかけた。ザイドを旅していた頃、彼女自身に教わったものだ。当時は全くものにならず、旅の中で使うことはなかったのだが、「ゼロ」を覚醒させたハヤトのそれは、もはや彼女の教えたものより遙かに強力な魔法へと進化していた。


 だが、それでも彼女の傷は癒えない。


「くそッ! なんでだよッ! どうして効かないんだ!」

「たぶん、ハヤト君は悪くない……。私の体がもう“魔力”に反応できるほどの力を残していないのよ……」

「待っててくれ! すぐに別の方法を……!」

「いいの」


 マヤは、静かに言った。


「いいのよ、ハヤト君。こんな形になっちゃったけれど……。ここで、お別れね」

「そんな……!」

「私、たくさん足、引っ張っちゃったね」

「そんなことねえよ! さっきの戦いは、マヤなしじゃ勝てなかった! たとえ『ゼロ』が覚醒したって……俺一人じゃ……」

「その先は、聞きたくないな」


 弱々しかったが、強い口調だった。


「ハヤト君、もう時間がないんでしょ……? だったら、急いで。世界を、救ってよ。君はそのために、ここに、きたんで、しょ」


 マヤの口から、血が溢れる。


「マヤ!」

「私は、最初にビンスと戦った時、本当なら……本当なら死んだはずだった……。だから、だからさ……これで、いいのよ」

「でも……! 俺は君と約束したんだ! もう一回、勝負するって!」

「いい加減に、しなさい。これ以上、失望させないでよ」


 マヤの体が光に包まれ、薄くなってゆく。

 消えてゆく。


「ハヤト君……最後だから……言うわ。私は、君のことが好きだった。兄さんも好きだったけれど、多分、それ以上に。だから、兄さん……いいえ、グラン・グリーンを倒すことができたのよ」

「マヤ……! マヤッ!」


 マヤは少しだけ体を起こし、ハヤトの唇にキスをした。

 彼女は、柔らかにほほえんでいた。


「えへへ……やった。やってやったぞ。ミランダさんとルーちゃんには悪いけど……私の、勝ちね」

「マヤ!」

「頼むわよ、勇者様。世界を、救って」


 そう言葉を残して、マヤ・グリーンは消滅した。


 ハヤトは、目をつむった。

 もはや、さっきまで腕に乗っていた心地の良い重みは、消え去っている。

 彼は、その腕を抱き込むようにして、叫んだ。


「うわあああああああああーーーーッ!」


 叫んだ。思い切り、叫んだ。


 死んでいった仲間たちに。消えていったクラスメイトに、恩師に。

 思いの限り、叫んだ。


 彼の目尻に、涙が溜まった。

 決戦前のマヤのように、泣きじゃくりそうだった。泣きたかった。

 

 しかし彼は、それが流れる前に腕でぐいとぬぐった。


 無駄には、できない。

 これまでの戦いと、仲間たちの命。

 その一切を無駄にしては、ならない。


 ハヤトは大きく深呼吸をすると、「グローボ」へと乗った。


 全てを終わらせるために。


 彼女に、会いにゆくために。

【次回】

少年は、魔王に出会う。

次回、最終話「史上最大の兄妹喧嘩」

ご期待ください。

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