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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第21話「信じるもののために」
199/212

その7

 マヤとグランの戦いは一方的な展開だった。

 グランはやはり、相変わらず腕を組んで立っているのみである。

 マヤは必死に彼の元へと近づこうとするが、突発的に発生する例の爆発に襲われ、飛ぶことすらままならない。


 ハヤトは奥歯をぎりとかんだ。


「くそっ……! マヤ! すぐ、助けに入るからな!」


 言いつつも、彼は相変わらず、動いた瞬間に爆発を繰り返している。

 マヤは、彼に一太刀浴びせることすらできず、その場に倒れこんでいた。体中に傷を作り、着ていた服は上半身部分が全て破れ、血がだらだらと垂れている。


「はあ、はあ……」

「マヤ。俺を止めるんじゃなかったのか。そんなところで倒れていちゃ、進めないだろう。早く立てよ」


 「紫電」を地面について立ち上がりながら、マヤは考える。

 結局、この男の攻撃方法がなんなのかわからないままでは、戦いにすらならない。このままではおそらく、運よく生き残っただけであろう自分の命が、無駄に終わってしまうだけだ。

 それだけは、あってはならない。死んでしまった仲間たちのためにも、ここで終わるわけには、いかない。


 だから考えろ。今できることを、考えぬけ。


 マヤは呼吸を落ち着け、剣を正眼に構えた。

 グランはそれを見て、あからさまに不機嫌になった。


「早く、来いってんだろッ!」


 爆発。マヤの体は、別の爆発で起きた穴の中へと飛ばされた。


「にい……さん……」


 マヤは、穴のへりに手をかけた。


「兄ではないが、聞いてやろう」


 グランの目的はあくまでも時間稼ぎである。


「あなたのこの魔法……火炎魔法だよね。そう、あなたの得意魔法は火炎……。電撃じゃない」

「そうだ。確かお前の本当の兄は、電撃魔法の使い手だった。確かにそれは、やつとの大きな違いの一つだろう」

「そう……なのよね。父さんも、そうだったの?」

「父? お前たちの世界のグリーン家には、家族がいたのか。……幸せなことだ。俺には家族など、いなかった。いたのはたったひとりの師だけだ」

「『レイヴン』」


 その単語を聞き、グランの眉がぴくりと動く。

 ようやく立ち上がったマヤは、言う。

 既に涙は止まっていた。


「名前。レイヴンって言うんじゃない? この魔法、思い出したわ。私の父、レイヴン・グリーンが提唱した最強呪文。実現不可能だと学会で言われても、父は死ぬまでこの魔法の研究を続けていた。速さを司る電撃魔法の最上位呪文として。最高最大の魔法として。結局、実現することはできなかったけれど」

「気が変わった。それ以上しゃべるな」


 グランがくわっと目を開く。

 マヤが反応して手を広げると、彼女の眼前にちらりと電撃がほとばしるとともに、何かが弾け、爆発が起こった。ダメージはない。

 グランはそれを見て明らかに表情を変えた。


「なっ!?」

「『完全無詠唱』。“魔力”の錬成すら必要としない、最高峰の魔法詠唱術。あなたは、それを実現していたのね。そして……それがあなたの真の『ブレイク』能力」

「この女……! 俺と同じ力を!?」


 グランは悔いた。

 マヤが生き残ったのはたまたま、空中にいたからである。死亡した五人と、距離が遠かった。たったそれだけである。

 彼女を殺していれば、ほかの何人か、特に“魔力”を否定できるミランダ辺りが生き残り、面倒なことになっていたかもしれない。

 だが、それでもまず、この女を最優先で殺しておくべきだったと、彼は強く後悔した。


 どうして、こうなる可能性を考えなかったのだ!


「私は『翼』の力を得た時に思ったの。この『ブレイク』は、願いを叶えてくれる力なんじゃないかって。だったら、私たちの願いはきっと一緒だわ。だから私にも、使えるはずなの」

「黙れ!」


 グランが飛び出しながらも、今となっては種の割れた「完全無詠唱」の魔法を放つ。

 魔法の威力自体は、大したものではない。しかしこの方法で放たれた魔法は、相手の知覚の外からヒットする。すなわち必中なのである。だから強い。最強の魔法と言って差し支えないだろう。


 だが、空中で電撃と火炎の爆発が何度も起こり、攻撃は当たらなかった。グランの魔法を、マヤの「完全無詠唱」による電撃が全て相殺したのである。

 マヤは「翼」で空を舞う。電撃と、火炎のぶつかりあいに包まれながら。悲しい運命を背負ってしまった異世界の兄を、見つめながら。


 兄さん。


 彼女は心の中でそうつぶやいてから、決意した。


「はああああッ!」


 マヤは、すれ違いざまに「紫電」を一閃した。

 グランの赤いローブの胸元が斬れ、同色の鮮血が吹き出した。


「ハヤト君、今よ!」


 勇者ハヤトは既に、空中に投げ出されたグランに向かって飛んでいた。


 グランは、「完全無詠唱」で自分の体を一瞬にして火炎に包む。その瞳は「蒼きつるぎ」を見据えている。


「ハヤト、貴様だけはッ! 貴様だけは絶対に通さんぞッ!『紅蓮炎舞ぐれんえんぶ』ッ!」


 グラン・グリーンが、とうとう切り札の言霊を口にする。

 燃えさかる火炎が踊り、巨大なかぎ爪となった。

 対するハヤトは、「蒼きつるぎ」に力を込める。周囲を飛んでいた「グローボ」が「つるぎ」に吸収され、大剣はさらにその大きさを増した。


「俺は、ここで止まるわけにはいかないッ! 『魔塊まかい蒼究剣そうきゅうけんッ!』」


 蒼き波動に包まれた鉄の塊は、炎の爪を一瞬にして消し飛ばす。

 ハヤトの放った技は、グランの体を猛烈な勢いで地面へと叩きつけた。

 この衝撃で、魔王の城を囲っていた平原が崩壊し、海へと落ちていった。


「ばかな……こんな、こんなことがあッ! ソルテス、ソルテスーーーッ!」


 グラン・グリーンは蒼い輝きに包まれながら、消滅していった。

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