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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第21話「信じるもののために」
197/212

その5

「ビンスとミハイルが負けたようだ。やはり奴ら、全員が『セカンドブレイク』していると見ていいな。……考え得る最悪の展開と言っていい」


「スポット」と呼ばれる空間の中で、グランがつぶやくように言った。

 隣ではソルテスが、紅い大剣を右手に握っている。左手には、同色の“魔力”がちりちりと輝きを放ちながら収縮していた。


「そう……。これでもう、みんなで帰れなくなっちゃったね」

「ああ。全てあの塔での魔王介入を完全に読み切れなかった俺の責任だ。言い訳したくないが、可能性を信じきれなかった。魔王が生きながらえているというのは、俺たちがやってきたことの否定になってしまうからな……みんなには、すまないことをした……」


 ソルテスが、笑顔を作る。


「そんなこと、ないよ。それに、こうなった以上しょうがないじゃない。例え二人だって、帰ろうよ。あと六時間。それで終わりだよ」

「六時間か……。思っていたよりも追いつめられたな。だが、みんなよくやってくれた。俺たちの勝ちは、揺るがない。残り六時間……俺一人で十分だ」


 ソルテスはにっこりと笑って、頷く。

 グランも、それにつられるようにして、ほほえむ。


「『魔王軍』になって、初めてそんな風に笑ったね、グランお兄ちゃん」

「そうだったか? ……あとは任せろ、ソルテス。俺が全員、倒してみせるから」


 グランの体が消えた。




「なッ……!」


 全員が絶句する。

 アンバー、シェリル。

 二人が一瞬で、死んだ。

 だが、その事実にかまけている暇はない。ミランダが叫ぶ。


「グランだッ! 全員注意――」


 ミランダはその時、背後に気配を感じた。


 ラッキーだと思った。


 グラン・グリーンが、自分を狙いに来た。ビンスも、さっきの大男も、もはや捨て駒だったのだ。この瞬間……一瞬の弛緩を、グランは狙っていた。


 ハヤトを狙わなかったことが不可解だが、そんなことはどうでもいいと、彼女は思った。


 ロバートの仇が取れる。彼女はそればかり考えていた。

 もちろん「鎧」のことが知られている以上、こちらも無事では済まないだろう。

 だが、刺し違える。そのつもりなら、できるはずだ。

 例えその結果、魔法で粉々にされるのだとしても。相手が接近さえしてくれれば、間違いなく。

 ミランダにはその自信があった。


 肩に、相手の手がつく。

 全神経を集中させ、ミランダはその腕を取った。


「うおおおッ!」


 彼女はそれをぐいと引き寄せながら、自分の槍を背後へと突く。


 しかし、手応えがない。


「なッ!?」


 背後には、誰もいなかった。

 だが、自分は確かに、その手を掴んでいる。今まさに、掴んでいるのである。


「お前はやはり、勘がいい。この段階で殺しておけてよかった」


 グランの声だけが聞こえると共に、彼女の四肢、そして首が勢いよくはち切れた。


 誰もいないその場所に、必死の形相でコリンが走り込んでいた。

 「グラスプライン」で作った布が周囲を覆う。


「あああああああッ!」 


 コリンの叫びと共に、「グラスプライン」が一気に収縮。身長百八十センチほどの人を象った。


「やっぱり、見えない魔法か何かでッ!」

「なるほど、そういう使い方もあるか」


 布から、人型が消える。瞬間、コリンの体が爆発するかのように、炎上を始める。


「い……いやあああああッ!」


 マヤが空中で悲痛な声を上げる。

 ハヤトは「蒼きつるぎ」の刀身を大きく伸ばしていた。


「グラァァーーーンッ!」


 周囲数キロを、力任せに、めちゃくちゃに切り刻むハヤト。

 地面が一瞬にして掘り起こされた。しかし、グランはそれでも出てこない。


「どこだ、どこにいやがるッ!?」

「ハヤト、マヤ! 落ち着いて! 今できることをするのッ!」


 ルーが「瞳」の能力を発現させる。

 だが、写り込まない。未来が見えないのである。


「見えない……もっと、もっと! もっと“魔力”をッ!」


 彼女の願いと共に、その体が成長する。

 成人女性並みになったルーの瞳が蒼く輝き、文様が時計板へと変わった。


「見えたッ!」


 ルーはその場で、勢いよくしゃがみ込む。同時に彼女の長髪が半分ほど吹き飛んだ。


「この男は、その場にいることを誰も知覚できないッ! それが能力だ! ハヤト、この能力の法則を破壊してッ!」

「くっ! そういうことかよッ!」


 ハヤトが地面に「つるぎ」を突き立てる。


「よお、勇者。気付くのがだいぶ遅かったな」


 既に死亡したルーの体を燃やしながら、グラン・グリーンが目の前に立っていた。

 ハヤトはすぐさま彼に向かって「グローボ」を飛ばしたが、グランはにべもなくそれを弾き返した。


「リブレの技か……。それも覚醒した『ゼロ』の力ということらしいな。それで、感想はどうだ。この状況を見て」


 惨状だった。

 一瞬の隙に、五人。

 五人の大切な仲間を、失った。


「全員が無事に済むとでも、思っていたか? 確かにお前の覚醒した『ゼロ』は強いのかもしれない。だが、他はようやくイーブンといったところだった。お前たちが俺の仲間をあっさりと倒したように、俺たちも。立場や状況が違えば同じようにできたってわけだよ」


 無事に済むだなんて、ハヤトは思っていなかった。

 それでも、こんなにも簡単に、こんなにも残酷に、仲間が殺されるだなんて予想していなかった。

 今際の際に言葉を残す訳でもなく、何かを託す訳でもなく。彼女たちはただ、瞬時に惨殺された。


 ハヤトは考えるのをやめ、「グローボ」に乗った。


「もう絶対に許さねえぞッ……!」

「同じ言葉を返すぞ、勇者ハヤト。命で償えッ!」


 マヤはただ、それを見ていることしかできない。

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