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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第21話「信じるもののために」
195/212

その3

「レジーナ。死体のレジーナ。城の地下でソルテスに無理矢理“魔力”だけ抽出されている、かわいそうだけれど黙っていれば美人のレジーナ。お前の“魔力”を貸せ」


 命令形で言ってはいるが、これはレジーナが従う訳ではなく、ビンスが既に死亡した彼女から一方的に“魔力”を奪っているだけである。


 彼は「自分」を数十体、円を作るようにして目の前に並べた。中央に、彼の切り札でもあるドール「ベス」を召還した。


「ベス……。ごめんね、また、少しだけ手を借りるよ。“魔力”の抽出には、女性の方が向いているからね……この間は、あんな奴に君をさわらせてしまって、ごめんね」


 彼は本当に申し訳なさそうに言って、彼女の乳房に触れた。


 瞬間、数十体のビンスの周囲に、リブレの持っていた剣が無数に浮かんだ。

 レジーナの「リミットレス・サーベル」である。

 瞳を紅色に染めたビンスは、その剣をちらりと見る。


「リブレの剣ってのがどうにも気に食わないが、彼女はどういうわけか、あいつを好いていたのだろうね。昔から僕にはそんな風に見えた。まあ、死んだ奴のことなんてどうでもいいけれど、この力は有効活用させてもらうよ。ミランダには魔法が効かないそうだからね」


 ビンスは「ベス」をしまい、「サーベル」をハヤトたちのいる障壁へと向けた。


「しょうがないからこの、くそくだらない我慢勝負には負けてやるよ。ただし君たちを殺すのは僕だ。『リミットレス・サーベル』!」


 数千本の剣が、言霊に合わせて飛び、障壁を針のむしろにした。

 ざくざくざくざくと、飛んでくる岩よりも遙かに効果的に、「サーベル」は障壁に突き刺さり、一瞬にしてそれを崩壊させた。


「岩に押しつぶされて死ね。もしくは出てこい。そして死ね!」


 ビンスは高笑いしたが、現れたのは四人の女性だった。

 アンバー、シェリル、コリン、ミランダ。

 岩が飛んだが、彼女たちはそれぞれの力でそれを弾き飛ばし、再び障壁を張った。

 ビンスはそれを見て、怒りを覚えた。


「なんだ……? なんだよ、それは……どうしてそれだけしかいない……。ハヤトはどこに行った!?」


 ミランダが、笑う。

 にたりと、いじわるに。ようやく言いたかった台詞を放つ。


「引っかかったな、クソ野郎。お前はまんまとだまされた。ハヤトたちはもう、城の方へ向かっている。とっくに着いてるんじゃねえの」

「なんだと……いつそんな暇が……」

「はっきり言おう。アタシにもわからねえ! 多分ここにいる誰も、理解してねえ! でもお前は六時間も待った! 待ってしまった! それだけが事実だよ!」

「ハヤトが『全員、このままでいてくれ』と私たちに指示した瞬間だ」


 アンバーがあっさりと言った。


「私とシェリルの二人で、ここにいる全員に幻術をかけた。一瞬だけな。だが一瞬で十分だった」

「そんな、まさか! 多人数に同時に幻術をかけるなんて――」


 言いかけて、ビンスははっとした。


「そういうことだ、ビンス。お前はお前の常識で物事を計ってしまった。『多人数に同時に幻術をかけることはできない』という常識をもって、この戦略を進めてしまっていた。そうだ。私たちはお前たちの過去を全て見た」

「この、裏切り者があっ! 見たというなら、どうしてそんな矛盾した行動を取る!」

「そうかもしれん。だが私には義務がある。お前たちを止める義務がな」

「ミハイルッ! やれッ!」


 返答するかのように、岩石攻撃が止まる。

 彼の背後数キロ先に、ぬっと巨大な何かが現れた。

 魔王軍のミハイル・テツナーであった。

 だが、聖域の塔で見た彼とは、そのサイズが異なっていた。

 遠目に見える城よりも、遙かに巨大に見えた。


「なっ! なんだよありゃあ!」


 ミランダとは対照的に、アンバーは冷静である。


「巨人化……ミハイルの『ブレイク』能力だ。もっとも、私が知っているものよりもずっと強力だが。奴が岩を投げ込んでいたわけか」

「おい、ビンス」


 ミハイルは地鳴りを伴った声で言った。


「勇者はどうすんだ、お前。逃げられたんだろ」

「関係ないね。まずはこいつらを、ミランダを殺す! 手伝えよ。もうあの時とは状況が違う。自由に殺したっていいんだぜ!」

「なんだ、そうなのか? なら悪くねえ」


 ミハイルは道端の石ころを捨てるようにして、巨大な岩をぽいと放り投げた。

 アンバーはそれを少しばかり悲しげに見ている。


「ビンスはともかく、ミハイルはもはや、原型のかけらもないほどに性格が変わってしまっているな。もっと冷静な判断のできる男だったはずだが」

「言ってろよ。お前等は全員殺すぞ。もう躊躇しない。ハヤトはそれから追えばいい」


 ビンスは「リミットレス・サーベル」を数千、数万本を使って巨大な剣を作った。


「ミハイル、使え! こいつで一発だ! 逃げ切ることなんてできやしない!」

「よし」


 ミハイルの投「岩」が終わったところで、勇者一行は障壁を消し、その場から散る。

 ビンスはそれを見て大爆笑した。


「おいおいお前ら、お前ら! バカじゃねーのかッ!? 逃げても無駄なんだよォ! 『パーフェクトドール』と『リミットレス・サーベル』! 何度も見てるでしょうに! どう考えてもそりゃ悪手だろうが! まあいいか、死ねよ!」


 ビンスが手を振り上げたその時。


「死ね、死ねって、いい加減うるせえ」


「蒼きつるぎ」が、彼の頭をかっさばいた。

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