その1
ハヤトたちの飛空挺は、魔王の城へと着陸した。
もっとも、見た目には飛空挺の方が遙かに大きかったはずなのだが、封印の施された障壁の先にあった空間には緑色の芝が広がっており、そこはもう「平原」と呼称してしまっても差し支えないような場所ですらあった。
だが、そんなことも吹き飛ぶほどの出来事が、一行に起こっていた。
「うう……」
デッキの上に座って、一人の男がぐずぐずと泣いていた。
彼らはその男が目の前に現れるのを、全く知覚できなかった。
だからこそ反応が遅れたのは事実だったが、それ以上に反応しがたい光景だと、誰もが思った。
「ううっ……死んじゃった……。リブレが、死んじゃった」
そんな風に震えた声で言ったのは、他でもない、ビンス・マクブライトであった。
「ハヤトに殺された。ハヤトに殺されたんだ。レジーナも。レジーナも殺されてしまったんだ。僕は……僕はもう、どうしたらいいのか、わからない……。仲間がいなくなってしまって、僕は……」
そこまで話したところで、ミランダが躊躇なく、彼の頭に槍を突き立てた。
「さすがに、白々しすぎんだろうが。驚きを通り越して、呆れかえっちまったよ」
「だよね」
彼の体はそのままデッキに倒れたが、背後から声が聞こえてきた。
全員が振り返ると、手すりに座るビンスがいた。満面の笑みで、自分の死体を見ていた。
「ようこそ、みなさん。性懲りもせず、また僕だ。そんな顔しないでくれよ、僕だって楽しくてやってるわけじゃないんだから」
「俺はもう、お前と話すのは飽きたよ。だから、これで最後だ」
ハヤトが真顔で言う。
ビンスはそんな彼の真っ青な髪を見て、ため息をついた。
「おお、ハヤト。君がそうやってたいそうかっこよく『ゼロ』の力を完全に覚醒させて、世界同士をまたいで来てしまったものから、僕はグランのやつにこっぴどく怒られて、ここまで来るはめになったんだぜ」
「てめーはもう、しゃべんなッ!」
再度、ミランダが攻撃。胸を貫かれたビンスと言う名の「ドール」は活動を停止したが、今度は上方から声が聞こえた。
「ま、でも同感だ。これで最後。これが正真正銘、最後だよ。これは戦いですらない。ただの時間つぶしだ。二つの世界がぶっ壊れるまでのね。『ゼロ』のことはその後でも遅くない。だから今は……死ねよ」
瞬間、飛空挺が大きく揺れた。
宙に浮く彼の背後に大きな岩が落ちてきて、飛空挺に激突したのだ。
「下品な攻撃だなあ、さすがミハイルだ。でも確かに、これが一番だよね。このまま、死ねよ」
「全員、飛び降りろッ!」
アンバーの叫びと共に、全員がデッキから飛び出す。
数秒後には、同様の岩数百個が降り注ぎ、飛空挺は地べたへとたたきつけられて爆散していた。




