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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第20話「戦いへの前奏曲」
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その4

 海すれすれを低空飛行するマヤたちは、その光景を下方から見ていた。


「うそだろ……あの艦隊が……ベントナー王が……たった一人に……」


 ミランダは少しばかり動揺していた。ベントナー・タウラは王でありながら、勇猛果敢な戦士であり、有能な軍師でもあった。ミランダはそれをよく知っている。今回も、最後まで自分たちのバックアップをしてくれると期待していた。だからこそ、その最期のあっけなさに驚くほかなかったのである。


「ミランダさん、そろそろです。『鎧』の準備、できていますね」


 マヤの冷静な声を聞いて、ミランダは自分の頬をたたいた。

 そう。立ち止まっている時ではない。最強の敵が今、自分の拠点を離れている。今のほかに、城へと近づくチャンスはない。


「ああ、やってくれ! シェリル、どうだい」


 シェリルは手に浮かぶ“魔力”の珠を眺めている。


「ソルテスが離れる時に、障壁がさらに強くなったようです。一体何十、いや、何百の法則で成り立っているのか……すら。ごめんなさい。私たちの常識ではもはや理解できないレベルのものです。せめてルーさんがいれば……」

「わかった。コリン、そういうことらしいよ!」

「魔法じゃ、破壊できない。わかりやすくていい」

「だな。マヤ、このまま一気に頼む!」


 マヤは右翼を上げ、左方に切り返すと、魔王の城をその頭上に捉える。


「スピードを上げて、突っ込むわ! しっかり掴まっていて」


 マヤの体から電撃がちりちりと舞い、速度がだんだん上がってゆく。

 少女たちは空を滑るようにして上昇していった。


「全速ッ! 『シャイニングブースト』ッ!」


 言霊とともに、きゅん、と小さな光の筋を残して上方に加速する。

 強烈な重圧がかかり、ミランダたちは息を止めた。

 みるみるうちに、城が近づいてゆく。

 やがてミランダが叫んだ。


「コリン!」

「『グラスプライン・キャスタディ』!」


 コリンがブレイク能力「グラスプライン」を発動。

 “魔力”で精製された桃色の糸が、しゅるしゅるとミランダの足に巻き付いた。


「やれっ!」


 合図に合わせ、コリンが腕を上げる。

 ミランダの体が、弾丸のようにはじきだされた。

 彼女は、目の前に迫った障壁を見た。

 一体何層、何百層が重ねられているのか。透明さが失われ、それが「障壁」だと視認できるほど、それは分厚かった。


「こんな障壁、アタシがぶち抜いてやるよッ!」


 ミランダは雄叫びと共に「鎧」を装着する。

 障壁に突進をかけると、周囲の障壁にひびが入り、次々に割れてゆく。


「よし、いける!」

「そうはいかなくてよ」


 声と共に、ミランダの体がぴたりと止まる。彼女は即座に「鎧」を解除し、障壁をけりつけた。


「戻せっ! 進路を変えろ!」

「『グラスプライン・スピニングホウィール』!」


 コリンの手元に巨大な糸車が設置され、回転を始める。ミランダが空中へと投げ出されたその時、さっきまでいた場所に数百本の剣が飛び、障壁へと突き刺さった。マヤはミランダを回収し、すぐさま後方へと切り返した。

 だが、ひとつの空を舞う小舟がそれを追った。


「なかなかいい判断ですわ! でも、このくらいは避けてくれないと、こちらとしても張り合いがありませんわね」


 小舟の縁に足をかけながら言ったのは、レジーナ・アバネイルであった。両手持ちの剣を握っている。

 ミランダは舌打ちした。


「モンスターを召還する女だ! 気をつけろ!」

「その通り。どうぞお気をつけて」


 レジーナは剣を船に刺すと手を広げ、“魔力”を練った。


「『サモンモンスター・レベル・フィフティファイヴ』」


 彼女の手のひらに“魔力”空間が精製され、下方向にカーヴしたくちばしと、羽毛に包まれた鋭い目が覗いた。その眼光は先を飛ぶマヤらを捉えている。


「でけえ、鷹か!?」


 翼を広げたモンスターの下半身には、四本の足と長い尾がついていた。シェリルが声を上げる。


「違う……あれはグリフォンです!」

「大当たり、ですわ」


 レジーナの手からモンスター・グリフォンが次々と召還されてゆく。それぞれが甲高い奇声を発しながら、マヤたちを追う。


「この数! 一体どれだけ出せるんだいっ!?」

「説明する義務はないけれど。その気になれば何万体だって出せますわ。ザイドを襲った時みたいな雑魚でしたら、もっと」


 言いつつ、レジーナは片手で剣を握って空へと放り投げた。

 彼女は、その剣……かつてリブレ・ラーソンが使っていたそれを少し悲しげに見てから、決意を固めた表情で紅く輝くガラス片を胸元から取り出すと、それを握りつぶした。


「あなたたちにはもう、希望すら与えない。私の『セカンドブレイク』で、このまま死になさい。『リミットレス・サーベル』!」


 空中の剣がぶん、と分身する。まるで巨大な剣山のように、数百、数千本と増えてゆく。レジーナが手を広げると、一斉にマヤたちの元へと襲いかかった。

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