その3
「魔大砲準備、全艦整いました」
オペレーターの女の報告を受けたアンジェリーナは不敵に笑いながら、肘掛けに手をついた。
「いくら強固な障壁といえど、永遠に持つということはあるまい。猿どもにも合わせるように伝えよ。魔大砲、全砲門開け」
アンジェリーナが手を挙げると、鳥を象る戦艦のくちばしが次々と開いてゆき、そこに“魔力”が収縮していく。
かつてハヤトたちがザイドの船で見た大砲「グレイト・クルーズ」を遙かに凌ぐ“魔力”が、一点に集中していった。
「始まるわ。急ぎましょう」
「翼」を開いたマヤが、自分の周囲に「ウォール」を精製する。
続いてコリンが「糸」の能力で鎖を作り、彼女の体を縛り付ける。鎖は三本に分かれた。
「ミランダさん、あなたが先頭です」
「おう。マヤ、じゃまだったら振り落としてくれたっていいからな」
「ええ、そうします」
「いい返事だ」
ミランダは笑いながら鎖を手に取り、マヤの「ウォール」に乗る。コリン、シェリルも続く。
「よし、頼む!」
「『ライトニングブースト』!」
戦艦から、稲妻をまとったマヤたちが飛び出した。
「マジックワード『メルトナカノン』承認。行けます」
「よし。撃てえッ!」
アンジェリーナの指示と同時に、くちばしの先端から勢いよく弾けるようにして、太い“魔力”の束が発射された。
「メルトナの艦隊に合わせろ! 『タウラキャノン』発射!」
続いて、ベントナーの戦艦群からも同質のものが魔王の城に向けて照射された。周囲が“魔力”の青白い輝きであふれた。
全方位から押し寄せる“魔力”の光線を見て、ソルテスは長いため息をついた。
「だから、嫌いなんだ……。あなたたちの運命は、もう変わらない。なにをしても無駄なの。私たちが決めた運命に、逆らわないで!」
ソルテスの体が紅く輝き、幅広の大剣が彼女の眼前に具現化する。
「『紅きやいば』が命じる! 周辺“魔力”法則を『破壊』せよ!」
ソルテスは剣を握り、ふわり、とその場で一度回転した。
瞬間、城の周囲を囲う障壁が光り出し、光線を受け止め始めた。
「ソルテスが動き出しました! おそらく……」
オペレーターが報告し終わる前に、アンジェリーナは立ち上がって叫んだ。
「構わん、このまま押し切るぞ! ありったけぶっぱなせっ! あの城を手に入れれば、タウラなど恐るるに足らん。世界は我らの物ぞ!」
鋼鉄の鳥たちは、攻撃を続ける。
だが城は、微動だにしない。
前回の攻撃で少しばかり見せた、障壁のゆがみすら起こらない。
アンジェリーナは拳を震わせた。
「なぜだ! なぜ動かん!」
「簡単なことだよ」
アンジェリーナは、思わず後ずさった。
自分の隣に、紅い髪の少女が立っていたのである。
「ソ、ソルテス!」
「アンジェリーナ・メルトナ。お前たちは勘違いしている。この世界の運命はもう、既に定められている。私たちに攻撃する意味は全くない」
「わけのわからぬことをっ!」
アンジェリーナが魔法を撃とうと“魔力”を練った、その瞬間。
彼女の腹を「紅きやいば」が貫いた。
「わからなくて、いいの」
「な……がっ……!」
「わからなくて、いいの。だから、そのまま死んでね」
「ソ、ソルテ……どうし」
「耳障りなんだよ、だまれ」
ベントナーは、赤い飛行戦艦が爆発を起こしたのを見た。
「なんだっ!? なにがあった! 応答しろ、アンジー……」
彼は、最後まで言えなかった。絶句した。
遠目に見える飛空戦艦が、次々と爆発して落ちてゆく。
百か二百か、三百か。艦隊が、消えてゆく。
爆発が、だんだんとこちらに近づいてくる。
小さな紅い輝きを伴って、近づいてくる。
「ま、まさか……。ここまで、力の差があるというのか」
「そうだよ、ベントナー王。でも、私は謝らない。だってあなたは、似ているだけで、けっきょくは『違う』から。ベントナー王には、全部壊してから、また会えるから、いいよね。だから、お前は壊れろ」
ソルテスが、彼の頭をはねる。
「壊れろ、壊れろ、壊れろッ! 全部壊れてしまえッ!」
少女は踊るように、剣を振るう。
爆発、重なるように、また爆発。
こうして、飛空艦隊は墜ちていった。




