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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第20話「戦いへの前奏曲」
185/212

その1

「リブレが、死んだよ」


 魔王軍の拠点である、青白い空間の中。

 魔王の城の、最上階。

 「スポット」のドアを開け、アジトへと戻ったビンスが、開口一番言った。

 部屋には、グラン・グリーンしかいなかった。

 彼はすぐさまビンスにかけよってその胸ぐらを掴んだ。その手はふるえていた。


「なぜだ! お前がいながら、どうして! なぜそんなことになった!」

「痛いよ、やめてくれ。僕だってすごく傷ついているんだ。聖域でハヤトの手助けしたのはやはり、魔王だった。そして……ハヤトの『ゼロ』も完全に覚醒してしまったようだ。彼の力は、リブレの加速を簡単に捉えていたよ。僕は『パーフェクトドール』であの世界を覆うのだけで、精一杯だった。リブレはそんな僕を庇って……」

「リブレは……リブレは、どちらにやられたんだ……」

「ハヤトだよ。あいつの『ゼロ』で、体を貫かれた」


 グランは彼を解放すると、床に膝をつき、両腕を打ち付けた。


「くっそおおおッ! 読みが甘かった……! 無理をしてでも俺が行くべきだったんだ……。リブレ、すまん……」


 ビンスは珍しく狼狽する彼を、生ゴミを見るかのようにして眺めつつ、着崩れたローブの襟を直した。


「グラン、君のせいじゃない。あちらに送るのは二人が限界だし、君とレジーナがここを離れたら、現状の指揮は誰がやるんだい? それに、能力的に見ても、リブレ以外の人選は有り得なかった。……彼は立派に戦ったよ。全員で帰れなくなったのは確かに残念だけど、僕たちは一度、失敗したんだ。こうなってしまったのは仕方のないことだよ。僕たちは彼の遺志を継げばいい。そうだろ?」


 グランはしばらく床を見ていたが、やがて立ち上がった。


「……それで、お前は、しっかりと奴らの隔離を成功させて来たんだな」

「もちろん。リブレが時間を稼いでくれたおかげで、二億五千万体、出し尽くして来たよ。世界同士の空が本格的に繋がり始めたとしても、もうハヤトが二十時間……想定時間内にこちらの世界に来られることはない」

「わかった。よくやった。これで俺たちの勝ちだ」


 部屋に、レジーナ・アバネイルが入ってきた。


「グラン。メルトナとタウラの飛空戦艦、さらに四百程度が来ましたわ。それとラングウィッツも合流したみたい」

「どういうことだ。タウラにもラングウィッツにも、戦艦を作るほどの技術はないはずだ」

「わかりませんの。でも事実ですわ。それとベルスタからも飛空戦艦が出たとの情報も……。この数ヶ月で、彼らの技術が一挙に進化したということ。……誰かが、裏で手を引いているのかもしれませんわね」

「ありえない話ではない。魔王が生きているのなら奴の手先の仕業かもしれんな」

「どちらにせよ、さっきと同等、もしくはそれ以上の攻撃を食らったら、障壁がゆらぐくらいはするかもしれませんわ。どうにかしたほうがいいと思いますけれど」


「だったら、私が行くよ」


 そこに現れたのは、紅い髪の少女。体じゅうから同色の稲妻のようなものがちらちらとほとばしっている。

 グランが即座に首を振る。


「ダメだ。お前は『レッド・ゼロ』の覚醒に集中しろ。どう見てもそれは、コントロールできていないぞ」

「力を押さえつけるだけじゃ、ふたつの『レッド・ゼロ』は覚醒しない。もっともっと、ここを拒絶しなきゃならない。その為には格好の相手だと思う」

「ダメだ。ここでやれ」

「リブレが、死んだんでしょう? だったら、弔わなきゃ。リブレを弔わなきゃだよ、グラン」


 レジーナの顔がひきつった。


「リブレが……! ソルテス。私もご一緒しましてよ」

「レジーナ! 感情に流されるんじゃない!」

「感情に流されているのはあなたの方ですわ、グラン。覚醒まで、まだ多少の時間がかかるのでしょう。それだったら、邪魔者は速やかに排除すべきですわ。あの中に蒼の勇者一行の生き残りがいるかもしれませんし」

「もはや、奴らには何もできん。前にも話したが“魔力”を否定できるミランダという女以外は脅威にすらならん。『セカンドブレイク』の片鱗が見えない限りは、このままの状態を維持すればいい」

「それってつまり、その女がここの障壁を破壊しに来るとしたら、まずいってことじゃないんですの?」


 言い合いを無視して、ソルテスは部屋の扉を開いた。


「ここで話してても仕方ないよ。私は行くからね。邪魔なものを全部、断ち切ってくる」

「ソルテス、待て!」

「待たない」


 彼女はとん、とジャンプする。


 ふわりと浮かんだ彼女は、城の中央に位置するベルクフリートの頂上に立った。

 全長五百メートルほど。切り立った城壁に、ツインネのある回廊、四つの長い側塔に囲まれた居館。その姿に、かつて魔王が使っていたと思わせるような禍々しさはない。まっすぐに立った神殿を思わせるその作りには、神々しさすら感じられた。

 視界の先には一面、海が広がっている。


「ここの景色はいつ見ても綺麗。だから、目障りなのよね、あれが」


 空中に浮かぶ魔王の城を包囲するようにして、翼を広げた鳥を象る、大きな飛空戦艦が無数に飛んでいた。

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