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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第19話「強襲、現実世界」
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その10(終)

 ハヤトの“魔力”が一気に高まると共に、彼の周囲に、蒼い「カルチャーレ・グローボ」がいくつか浮かんだ。

 同時に、異世界で戦った時に使っていた藍色の皮鎧が装着された。


「リブレ。この技、もらっていくからな!」


 リブレは、何も答えない。

 彼は既に、動いていない。

 それでもハヤトは、言っておきたかった。


 球を踏みしめると、ハヤトは一挙に加速して空へと向かっていった。


「うおおおおおッ!」


 ハヤトが剣を振ると、「蒼きつるぎ」から同色の光線が飛んでゆく。

「グローボ」がそれを跳ね返し、加速させてゆく。

 彼はビンスが作り上げた「ドール」の層を、間近でにらみつけた。


「この力で、世界を救えるっていうのなら! 俺に、できるっていうのなら!」


 ハヤトは「グローボ」の一つをたたっ斬る。無数に反射、増幅された蒼い光線が、空にまき散らされた。

 ハヤトはそのまま空中で、猛烈な勢いで回転を始める。


「やってやるッ! いっけぇええええ! 『蒼球斬波そうきゅうざんは』ッ!」


 蒼い光線が、空をまるごと包み込む。

 空を覆っていた「ドール」は、それに触れた瞬間、消滅していった。

 ハヤトは上昇を続け、次々に「ドール」を消し去っていく。


「こんなもので……こんなもので俺を止められると思うんじゃねえぞぉッ!」


 暗い空が、やぶけてゆく。

 青い空が、戻ってくる。


 その光景を、ルーは大喜びで見ていた。


「ハヤト、やっぱりすごいの!」 


 リノは興味深そうに、空に輝く光線を眺めている。


「『ゼロ』の力が、『レッド・ゼロ』なしで完全に覚醒している。こんな歪んだ世界のはざまで、こんな力が生まれるだなんて……本当に皮肉なものね」


 回転を止めたハヤトは、辺りを見回す。

 本当の空が、燦然と輝く太陽が。彼を出迎えた。


「ああ……」


 ハヤトは思った。



 なんて、なんてきれいなんだろう。



 感慨に耽っていると、彼の右方に、何かが大きなものが現れた。


「これは……!」


 何かが、空気を裂くようにして回っていた。

 ハヤトは上を見て、それが、一つの大きなプロペラだと気がついた。


 同様のプロペラが、次々と現れる。

 リノは遠目からそれを確認すると、息をついた。


「ようやく来たわね」


 無数のプロペラがついた、巨大な、巨大な船。

 飛空挺であった。


「すげぇ……」


 ハヤトは、思わず絶句する。

 その大きさが、自分の常識を遙かに越えている。

 ジャンボジェットよりも、ザイドで乗った船よりも、ドラゴンよりも。

 比べものにならないほど巨大だ。


 そこに、暗い闇が迫ってきているのを、彼は確認した。


「ビンスの『ドール』軍団!? まだ残っていたのか!」


 ハヤトがすぐさまそちらに向かおうとしたが、飛空挺から、一人の男が飛び降りたのが見えた。


「しゃらくせえッ! 『ジョバンニ・エクスプロージョン』ッ!」


 聞き覚えのある声と共に放たれた輝く拳は、残っていた「ドール」を瞬時に消し去った。

 男は、空中に着地すると、つばの長い帽子を掴んで叫んだ。


「ようハヤト! また会えたなぁ!」

「ジョ、ジョバンニさん!?」


 ジョバンニ・ロストフ。

 ハヤトたちがザイド・サマーで出会った、トレジャーハンターを自称する、奇妙な男。

 夏の精霊との戦いで凄まじい技の数々を披露し、ハヤト一行に“魔力”の可能性を見せつけたかと思うと、ひとり消えていった謎の男が、ここに現れたのである。

 だがハヤトは、思い出した。

 そうだった。この男は。


「遅いぞ、ジェイ!」


 リノの声が飛んだ。

 ジョバンニ……かつてソルテスたちとも戦った魔王の右腕・ジェイは、その声を確認するや否や、慌ててマンションの屋上まで降りて彼女にひざまずいた。


「魔王様、すんません。どうにも、数が多くてね。男ジョバンニ、ここに戻りました!」

「ずいぶんとまあ、キャラクターが変わっちゃって。あっちの世界で、よっぽど楽しんでいたみたいね」

「そ、そんなこと、ないっすよ。ちゃんと言われたとおりにやりましたって。それに人間の世界にとけ込むってのも、悪くなかったですねえ! 魔王様に頂いたジョバンニって名前も、すっかり気にいっちまいましたよ」

「……まあいいわ。ハヤトに飛空挺を貸してやりなさい。あなたはここに残って、ビンス・マクブライトのお人形ちゃんの残党から、ここを守りなさい」

「へえ、魔王様。もしかしてハヤトたちの方を応援してらっしゃるんで? えこひいきはしない主義だったんじゃ?」

「異常事態なのよ。やらなきゃ私たちも危ないの。手伝いなさい」

「はっ!」


 リノは、ルーの頭に手を置いた。


「ルー。今からもう、あなたは自由よ。好きに行動しなさい。あなたが好きな、あの子のためにやるって言うのなら、おばあちゃんは応援するわ」

「ありがとうなの、おばあちゃん!」


 ハヤトが降り立つと、ルーは彼の元へと走っていった。

 彼はルーを抱き留めてやると、リノに言った。


「魔王さんよ……その、助かったよ。でもこれも、『ゼロ』の意志って奴なのか? 『ゼロ』って一体、何なんだ?」


 魔王は、ただ、言った。


「自分が思うように行動すれば、それでいいの。それ以上のことなんて、ないのよ。……今にお人形さんたちが戻ってくる。早く行きなさい。あの飛空挺は、“魔力”でコントロールできるわ」


 ハヤトは、しばらく黙っていたが、頷いた。


「……そうするさ。真矢、またな!」


 ハヤトとルーは、ぐんと飛び上がって飛空挺へと向かった。


 彼らは、進む。最後の戦いの場へ。

【次回予告】

少女たちは戦う。

少年が来ることを願って。悪意と戦い続ける。

人々は抗う。それでも、運命から逃れられない。

悪意は願う。運命が運命と定められる、その時まで。


次回「戦いへの前奏曲」

ご期待ください。

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