その6
「つう……」
ハヤトは、なんとか起きあがった。
あまりにも見慣れた風景に、違和感を覚えた。いくつも並ぶ茶色い机に、同色の床。そして深緑の板。自分が飛ばされてきた壁は完全に吹き飛んで半壊しているが、それでもよく知る場所だと、一瞬でわかった。
「さっきの一発で、学校まで飛ばされたってのかよ……」
「そうか、ここは『ガッコウ』って言うのか」
光の球「グローボ」を伴って、リブレが倒れた教壇の上に姿を現した。
「ギルドみたいなものかな? 面白いねえ、知らないものばっかりだ。でも全部、僕たちがぶっ壊すし、この世界の人間は全員ぶち殺すよ」
「そんなこと、絶対にさせるかよ……!」
言いながら再び蒼い“魔力”を噴出させるハヤトの体を、リブレはじっくりと見た。
自分がつけた傷が、すでに消えている。
リブレは汗を垂らした。
だが彼は、目を閉じてその不安を消した。
「そうだ……僕はもう、恐れることを知らないはずだ。ソルテスの力で、勇気溢れる最強の剣士になったはずなんだ」
だがその時、背後から低い金切り声のようなものが響いた。
リブレが振り返ると、空を飛んでいたドラゴンの数体が、空中でその体を分解させて消えていった。
「なにっ!?」
彼は、即座にはっとしてハヤトを見る。
ハヤトはその様子を遠めに見てつぶやいた。
「やっぱり、全部は無理だったか」
「貴様っ……! 建物から落ちる時に剣を振ったのは、僕を狙ったんじゃなくて……!」
「あんなのに飛ばれてちゃ困るんだよ」
「僕がお前を殺すために全力を出していた時、君はそんなことを……そんなくだらないことを考えていたのかッ……! なめやがって……なめやがってええええッ!」
リブレの右目が紅く輝く。「グローボ」がハヤトを一斉に取り囲んだ。
ハヤトはそれらをかわそうと試みたが、「グローボ」の攻撃に死角はない。すぐに先ほどと同じように、彼は宙に浮かされた。
「ハヤト! 僕らのしたミスは思っていた以上に大きなものらしい。何をしててでも、お前をここで、絶対に! 殺しきるぞッ!」
リブレが地を蹴り、姿を消す。
一瞬の間の後、床に大きなヒビが入り、机や壁がその場から吹き飛んだ。
「グローボ」を蹴り、「ブレイク」能力で加速。
速さを上げながら、方向を調整。
さらに加速。
立て続けにもう一度、加速。
もはや、こうなったリブレを目視できる人間はいない。
「『コンフィーネ・ヴェローチェ』ッ!」
リブレの剣が、ハヤトへと迫る。
だが、その時。
リブレは眼前に、何かを丸みの帯びたものを見た。
なんだ、と判断する頃には、彼の顔にそれが激突していた。
「ぐうッ!」
教室の壁を四つほどぶち破ったところで、リブレは「グローボ」を呼び出すと、即座に切り返してハヤトの方へと向かう。
「何だ、今のは……!?」
答えはすぐに明らかになった。
追いかけてきたハヤトの周囲に、蒼く輝く球が浮かんでいたのである。
「グ……『グローボ』だとぉッ!?」
「おおおおッ!」
二人の剣が、超高速で交錯する。「グローボ」がその中に介入しようとするが、蒼い球がぶつかりあい、それを妨害した。
「こ……こいつ、僕のスピードに……!」
リブレは一度距離を置いて加速しようと試みたが、その腹に蒼い「グローボ」が激突する。
「がっ!」
次に顔、後頭部、右腕、左腕。
最後に背中にヒットすると、剣を振りかぶるハヤトの元に、その体が引き寄せられていく。
「う、うわああああああ!」
「『蒼きつるぎ』よ、もっと輝けっ! 『蒼刃破斬』ッ!」
ハヤトが剣を振り切ると、蒼い剣筋がそこに残された。同時に周囲が全壊するほどの衝撃が起こり、リブレの体は空中へと吹き飛ばされていった。
ハヤトは自分の周りに浮かぶ球を不思議そうに眺めたが、すぐにその一つに足をかけ、大きく跳躍した。




