その4(終)
ハヤトは騎士団から支給された、革製の鎧に着替えた。パーカーなどは、捨ててしまった。
「なんで鋼鉄製にしないの? あっちの方が頑丈よ」
「あんなの、重すぎて着てられないって。これも十分頑丈だし、着ごこちもいいよ」
ハヤトは自分の灰色の肩あてをこんこんとたたいた。
本当は、鋼鉄製でもよかった。
だが、この革の色がどことなく、剣道の防具を彷彿とさせたのだった。
形は似ても似つかないが、そのくらいはあちらの世界の面影を残しておきたかった。
「じゃ、次はこれね」
マヤは剣を何本か取り出した。
ハヤトは、銀色のさやに納められた細身の剣を選んで背中にかけた。
ずっしりと重かった。
「『蒼きつるぎ』が自由に出せない以上は、これで身を守ってね。どちらにせよ木の棒だとか、剣だとか、媒介が必要みたいだし」
「ああ」
しばしの沈黙。
「あのさ」
口火を切ったのはマヤだった。
「さっき、行くのを断ろうとしてたよね」
「……まあね」
「どうして、行こうと思ったの? なんだかあなたは、本当に私の知らないところから来たみたい。だってあまりにも、この世界のことを知らなさすぎるもの」
「ようやくわかってもらえた?」
「ええ。でも、どうして行くって決めたの?」
ハヤトは背中から剣を引き抜いて、切っ先を空に向けた。
「だって、俺は勇者なんだろ? だったら、魔王を倒すしかないさ……魔王のところに、行かないと」
「……そっか。だったら、私も一緒に行くわ」
「えっ!?」
驚くハヤトをよそに、マヤはにっこり笑った。
「だってあなたは、この世界のことをまるで知らないでしょう? ベルスタのほこらがあるファロウの村って、どこにあるかわかる?」
「いや、知らないけど……騎士団の仕事はいいの? そこそこ、偉い立場なんだろ」
「ああ。辞めたわ」
「えっ!?」
「フィリップ団長があんまり怒るから、最終的には休職兼、勇者の道案内ってことにしてくれたみたいだけどね。私、あなたの『蒼きつるぎ』を見た時にもう決めていたの。だから、あなたが拒否してもついていくからね」
ハヤトは、手を差し出した。マヤは意外そうにした。
「拒否なんてしねえよ。俺だって、マヤについてきてもらいたいと思ってた。うれしいよ」
マヤの顔が一気に紅潮した。
「よ、よくもまあ、そんな浮ついた恥ずかしいせりふが出てくるわね。その手には乗らないんだから!」
ハヤトは首をひねる。マヤはかぶりをふってから、彼の手を取った。
「改めて自己紹介。私はマヤ。マヤ・グリーンよ」
「折笠ハヤトだ」
「オ、オリ……カ……サ……? ずいぶん個性的な名前ね」
どうやら苗字のほうは世界観にそぐわないらしい。
ハヤトは少し考えて、言った。
「あ、やっぱ今のなし。スナップだ。ハヤト・スナップ」
マヤは少し不思議そうしながらも、ぎゅっと手を握った。
「よろしく、ハヤト・スナップ君」
二人の旅が始まった。
【次回予告】
始まった旅。
少年は少しずつ世界へと溶け込んでゆく。
まだそれが何を意味するのかも知らずに。
次回「ケモ耳少女は子作りしたいの」
ご期待ください。