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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第19話「強襲、現実世界」
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その3

 飛ばされたリノは、空で待機しているドラゴンの一体に捕まってその背に降りた。

 ビンスも彼女のすぐ近くに着地した。


「さーて、これでようやく二人きりになれたね、魔王。ところで、君がハヤトに肩入れするのはルール違反じゃないのかな?」

「元から違反しているのはあなたたちの方なのよ。世界を飛び越えたり、『ゼロ』の保有者を自分たちの世界で育てたり、もうめちゃくちゃだわ」

「お言葉を返すようだが、めちゃくちゃにしてくれたのは他でもない、君のほうだろう。僕たちにはハヤトを教育する必要があった。この世界にはモンスターがいないらしいからね。このままで彼が『レッド・ゼロ』どころか『ゼロ』の力を持つに至る可能性すら皆無に等しかった。だから、彼をある程度の命の危機に晒してやる必要があった」

「判断としては間違っていないけど、バカね。そのままにしておけば、少なくともこの世界同士の勝負には勝てたはずよ」

「へえ、やっぱりそういうシステムなんだ? 『ゼロ』を持つ人間同士が、世界を賭けて戦う。『スポット』はそのための場所ってわけだ。なるほど。僕らが戦ったソルテスは、相当なムチャをやらかしたらしいな。君が焦る訳だ。だが、わかりやすい。それだけ『ゼロ』の力は強大ということだ」


 リノは答えない。

 ビンスはにやりと笑う。


「しかし、もうそんなことはもうどうでもいい。僕は君をずっと待っていた。この時を待っていた」

「愛の告白ならお断りよ」

「なあ、魔王。僕に『ゼロ』をくれないか? なんなら、ハヤトかソルテスが持っているものを僕に移してくれてもいい。お前にならそれができるんだろう?」

「……それで、どうしようっていうの」


 ビンスは演技じみた動作で手を広げた。希望に満ち溢れた少年のような、明日結婚する青年のような、そんな明るさで。


「決まっているじゃないか。『ゼロ』をもっと研究したいんだよ。なんなら僕の世界を作ってもいい。とにかくもっと『ゼロ』のことを知りたいんだ。こんなにも面白い研究対象は他にない」

「……あなたは、そのためにこうする道を?」

「いいや、元はグランやソルテスたちに賛同していた。でもきっと、どこかでそんな風に思っていたところがあったんだろうね。人間性を破壊された僕は、いつの間にかその為に生きるようになっていた。僕はそのためなら『ゼロ』のために動くよ。ハヤトにだって力も貸すし、なんならソルテスを暗殺してあげてもいい。彼らは世界の書き換えには邪魔だろうし、今は別のことで手がいっぱいだからね。どうだい、悪い話じゃないだろう?」


 リノは、しばらく黙った。まるでそれを検討するかのように黙りこくった。

 ビンスはただそれを見ていたが、彼女の様子が変わったことに気がついた。


「おい、魔王。聞いているのか?」


 少女は、三角耳をぴくぴくさせて彼を見た。


「おばあちゃんが言ってるの。あなた、とってもばかだって」


 ビンスの顔付きが変わった。


「おい、獣人。お前に用はない。魔王を出せ」

「おばあちゃんは、もう話すことはないって言ってるの。ルーで十分だって、そう言ってるの」

「きさまッ!」


 ビンスが「ドール」をけしかけ、ルーに向かわせる。

 だが、ルーはそれらを手で弾いた。


「それにしても驚いたの。おばあちゃんは、ルーの中にいた」

『驚かせてごめんね、ルー』


 ルーの脳内に響くリノの声は、謝罪の気持ちに満ちていた。


『でも、あなたは私が思っていた以上に強くなった。本当だったら、「ブレイク」能力の覚醒とともに、あなたの人格はもう発現しないはずだったの。しかしあなたは、私の力をはねのけて、「ルー」という存在を確固たる一人格として作り上げた。何が理由かは知らないけれど』

「それは、ハヤトのためなの。わたしは、ハヤトのお嫁さんになりたい!」

『……認めるわ。あなたは魔王の予備人格ではない「ルー・アビントン」という、一人の魔族よ。あのバカと話すのは飽きたから、あなたに任せるわ。私の“魔力”を使いなさい』

「わかったの、おばあちゃん!」


 ルーは「ブレイク」能力を発現させる。


「出てこい魔王ッ! お前を従わせてでも、僕は『ゼロ』を手に入れるッ! エイミー、メグッ!」


 ビンスは瞳を紅く染め上げると手を地につけ「ドール」をニ体召還した。黄色いドレスの小柄な人形と、桃色の華やかな衣装をまとった大柄な人形が姿を表した。どちらも血で汚れている。


「最初にお前と戦った時とはレベルの桁が違うぞ。僕の大切な大切な、最初の『オリジナルドール』だ。一体でも、そこにいるリブレくらいは強いと思うよ」

「そんなわけないの。人形は人形なの」

「僕の『オリジナル』を、人形呼ばわりするなあッ!」


 ビンスが両腕をなぐ。「オリジナルドール」の二体は、ふっと姿を消した。

 ルーは「瞳」の文様をぐるりと回転させた。


「見えるの!」


 手を広げた彼女の元に、二体のドールが拳を打ち付ける。「障壁」と拳がぶつかりあい、衝撃が起こる。

 ビンスは高い声を出して笑いながら叫んだ。


「ジョーッ!」


 三体目の「オリジナル」が、正面から彼女に襲いかかる。

 ルーはその場をジャンプして、危機を脱する。


「はい、詰んだぁっ! ベスッ!」


 完全に少女の姿をしたビンスのオリジナルドール「ベス」が、空中に控えていた。彼女は大きな“魔力”の珠を作っている。


「はははははッ! とりあえずぶっ飛びなよ、魔王!」


 「ベス」の攻撃が、ドラゴンの背に激突する。

 “魔力”が収縮し、ドラゴンを一瞬で飲み込むほどの大きな爆発が起こった。


 ビンスは空中で、「ベス」に抱きしめられていた。

 彼はいとおしそうにその体をさすった。


「ごめんよ、ベス。また戦いにかりだしてしまって。君の力が必要だったんだ。でも、もうすぐだからね。『ゼロ』の力を手に入れて、いずれ君を蘇らせてあげるから」


「『デス・ブリーズ』」


 瞬間、「ベス」の頭がはねられた。

 ビンスは、その場に硬直する。


「なぜだ……『障壁』は中和したし、『オリジナル』三体で拘束したんだぞ……一瞬たりとも避ける隙はなかったはずだ。死ぬには至らずとも、直撃を食らったはずだ……なぜだ……」

「簡単よ」


 黒いドレスをまとった魔王・リノが彼の前で腕組みしていた。

 体の大きさや顔つきなどは先ほどまでと同じだが、三角耳はなく、瞳の色も赤から銀色に変わっていた。


「ルーに体をあげたの。あなた、魔王を相手にしている自覚、あったの? 私がズルしないとでも思ってたの? そのお人形ちゃんでできたのは、ジェイ一人を止めることだけだったでしょう? どうしてそんなこともわからなかったの?」


 ビンスは、体をぎこちなく動かして地面をみる。

 なんとか攻撃を耐えたらしいルーが、こちらを見ていた。


「おばあちゃん……おばあちゃんなの!」

「が……は……!」


 ビンスの体が、ずるり、と縦方向に裂けてゆく。


「今度はあなたが斬られる番になったわね。感想は?」

「……これで終わると、思うなよ……もうお前たちは……間に合わ」


 そこまで言ったところで、彼の体は「ベス」と共に両断され、落ちていった。

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