その2
リブレが地を蹴ると、その姿が消えた。
ハヤトは首を右方向に向け、その場にしゃがみこんだ。空気が裂ける音だけが聞こえる。
剣を振り切ったリブレがそこにはいた。
「さすがはハヤト。もはや僕の動きが見えているらしいね」
「お前等に鍛えられたからな。“魔力”がだだ漏れなんだよ、お前の攻撃は」
「だからこそ速い。それが僕の力だ。僕が“魔力”を込めれば込めるほど、君は追いつけなくなる。さあ早く『蒼きつるぎ』を出せ。次はこんなもんじゃないぜ」
リブレの姿が、再び消える。
ハヤトは少しばかり躊躇した。
『レッド・ゼロ』。世界を破壊するという現象を、自分はあの塔で引き起こしてしまった。
同じことが、起こりえないだろうか。
「出しなさい、ハヤト!」
だが、ビンスの攻撃を避けながらリノが声をかけた。
「問題ないわ! だからこそ、こいつらはここに来ている!」
「……それ以上しゃべらないでもらえるかな。リブレ、引き離すよ。頼んだからね」
ビンスがその隙をつき、「ドール」で彼女の体を掴んで屋上から遙か遠方に飛ばした。
ハヤトはその言葉を信じるほかなかった。でなければ、「ブレイク」能力には対抗できない。
彼は胸のポケットから、一本のシャープペンシルを取り出した。
“魔力”を込めると、ペンは輝き出し、一振りの剣となった。
「やるしかない……! 絶対にお前たちの好きにはさせない!」
「いいぞ! その感じだ! あの時の興奮が、悔しさがよみがえってくる! ぶっ殺してやるぞ、ハヤトッ!」
「どうしてだろう」
同時刻。
森野真矢は、自分の行動に疑問を感じていた。
竜、だろうか。アニメや小説、ゲームなどに出てくる、あれだ。翼を生やした、想像上の生き物。
折笠隼人と別れて家に向かっていた彼女は、近くのマンションでそれが飛んでいる光景を目の当たりにした。
周囲を歩いていた人たちはパニックになって悲鳴を上げたり、携帯電話で写真を撮っていたりと反応は様々だが、誰もがその光景を異様なものとして捉え、恐怖していた。
だが彼女は、どうしてかその非現実的な光景が一目で納得できた。
そして、歩いていた。マンションに向かって。
そうしなければならないような気がしたのだ。
自分でも、なぜそんな風に感じて、今こうやってマンションの入り口に向かっているのか、理解できない。
しかし、その行動には奇妙な確信があった。
怖いと一瞬思ったりもしたが、それ以上に彼女は強く感じていた。
行かなければならない。
「折笠……ハヤト」
彼女はそうつぶやきながら、歩き続けた。




