その11(終)
ハヤトは、その場に膝をついて、思わず倒れ込んだ。
少女は、それを冷たい目で見ている。
「どう、これでわかった? あの子たちが何をしようとしているのか」
ハヤトは、床を見ていた。
「あいつら……魔王軍の奴らは、違うっていうのか。記憶喪失だとか、そんなことじゃなくて……自分たちの世界を『蒼きつるぎ』に破壊されてやってきた、よく似た別人ってことなのか」
「ええ。そして彼女たちは、失われた世界を取り戻すために、見知らぬ世界を破壊する道を選んだ。解釈が間違っているところもあるけれど、とにかく不運としか言いようがないわね。あれだけ近似した世界の自分たちが相手じゃ、訳がわからなくなってもしょうがない。本来は、もっと異なった世界同士が選ばれるはずなんだけれどね。『ゼロ』の考えることはわからないわ」
彼は立ち上がり、少女の胸ぐらを掴んだ。
「そんな言葉で片付くことなのかよ……!? 教えろ、お前は誰だ……! どうしてこんなことを知っている」
「説明する必要はないかと思ったけれど、いいでしょう」
少女は手を払いのけて、言った。
「私は『ゼロ』の使者、リノ・ゼロリアスム。あっちの世界じゃ『魔王』とも呼ばれていたわね。『ゼロ』を持つ世界同士を結びつけて、『レッド・ゼロ』を発動させるのが私の役目よ。『ルー』としてあなたに近づいたのは、今回の世界の結びつき方が異常であることと、あの子たちがルール違反をしていたから、時が来た時に事実を伝え、あなたに助言するため。まさに、今、この時のためよ」
「じゃあ今起きていることは全部……お前のせいなのか。あの塔に倒れる人々……なんでこっちの世界にまで、影響が出ているんだよ!」
「私が起こしているわけじゃない。『ゼロ』の存在目的は、世界を破壊して、そのエネルギーで『ゼロ』を増やすこと。私はそれを管理、補佐する存在でしかないからね。そして今起こっている世界同士の癒着は、ソルテスがあなたの妹としてこの世界にやって来たことが原因よ。異なる世界にも、似た人間はいる。でも、互いに影響を受けるなんてことは普通はない」
「ユイは……ユイは、あっち側の人間なのか」
「それは正解。あの子はソルテスであって、折笠唯ではない。あの子はこの世界の『ゼロ』の持ち主である折笠隼人をあちらの世界に導くため、そして、あなたの力を『レッド・ゼロ』に覚醒させるため、この世界へとやってきた。いくつもの常識や人々の記憶を破壊して、あの子は『折笠唯』としてこの世界で生きていた。……正直ここまで徹底して無茶してくるとは、私も思っていなかったわ」
ハヤトは、壁にもたれかかって、拳を打ち付けた。
「ふざけんな……! それじゃあ俺は、あいつらの道具になるためにあの世界へ連れて行かれたっていうのか……!」
「そういうことになるわね。でもあなたは、あの世界に行ったことで、彼ら魔王軍と何度も戦ったことで、あの子たちがズルをしたおかげで、チャンスを得た。この世界では絶対に成し遂げられなかったであろう『ゼロ』の発動、そして『レッド・ゼロ』の覚醒未遂。ここまで強くなれば、もうあの子たちのところまで、手が届くわよ」
魔王・リノは表情を変えず、続けた。
「世界を守りたいというのなら、戦いなさい。そして倒しなさい、ソルテスを。二つの世界は、だんだん混ざり合い始めている。このままでは両方がなくなってしまう」
「倒す……殺せって言うのか、ユイを!」
「よく考えて。ソルテスはそれも計算に入れて、あなたの妹になることを選んだのよ……いえ、考えている時間は、やはり多くはなさそうね」
その時、地鳴りとともに、地面が大きく揺れた。
「な……なんだっ!?」
ハヤトは窓を開ける。
翼を生やした巨大なドラゴン数体が、空を旋回していた。
【次回予告】
少年は理解する。
悪意が何を意味しようと、彼は決意を固くする。
運命は今、定まり始めている。
次回「強襲、現実世界」
ご期待ください。




