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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第18話「勇者の旅路 明かされる真実」
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その10

 白の一行は、黒い扉をまたいで空間を脱出した。

 見えたのは、やってきた時と同じ、魔王の城の内部であった。

 しかし、全員がすぐに、異変に気がついた。


「……左右が、逆だ」


 リブレが口にしたが、誰も反応しなかった。

 部屋の構成が、戦った時とは鏡合わせにしたように逆だった。


 中央には、自分たちと戦った魔王が、縦方向に真っ二つになって倒れていた。


「嘘だろ……」


 またもや、リブレが言った。


「魔王は、横に……横に斬られたはずじゃないか。うそだろ……こんなの……。僕たちが戦っていたあいつらは、本当に……」


 グランが一歩前に出て、その亡骸を焼いた。


「リブレ、それ以上言うな。全員、わかっているな。まずは現状について調べる。ソルテスは『蒼きつるぎ』を使うな。判断はそれからだ」


 その言葉はあたかも、目の前の決定的事実を否定するかのようだった。

 だが、この時点ではまだ誰も、信じることができていなかった。

 この世界が、どこであるのかを。



 それから数日、勇者一行は世界の現状について調べた。

 レジーナは魔王の城へ誰も近づけないよう、巨大な障壁を張り、封印を施した。

 ミハイル、リブレ、グラン、ソルテスの四人は各所に赴き、情報を収集した。魔族がいなくなったことで彼らは英雄としてもてはやされたが、目的を達成するとすぐに城へと戻った。


「……これで、はっきりしたな」


 グランが、世界地図を広げる。

 全員が息を飲んだ。


 彼らが知っているそれとは、少しだけ異なっていたのである。


「ベルスタに大きな違いはないが、ザイドとの間に海が設けられて島国になっている。タウラとメルトナは逆に地続きだ」

「でも、タウラの国王は変わらずベントナーさん、メルトナもアンジェリーナさんだった。ザイドはジェイクさんじゃなくてルドルフ王子みたいだったけど……ここに生きている人たちは、ニセモノじゃない」

「だけど、違うんだね……。ここは、私たちが生まれ育った場所と、別の世界……そういうこと、なんだよね?」


 別の、世界。

 それが彼らの導き出した答えだった。


「グラン! グランはいますか」


 部屋にビンスが入ってきた。いくらかの本を手に持っている。


「どうした」

「城の地下室に残されていた『蒼きつるぎ』の研究データがほぼ解析できました。……これらを総合すると、今回の現象についてのほとんどが説明できます。私たちが今、ここにいるのは『蒼きつるぎ』……いや、『ゼロ』の力によるものです」

「どういうことだ」


 ビンスは間を置いた。

 彼自身も少しばかり、言うのを躊躇していたようだった。


「ソルテスの持つ『蒼きつるぎ』は、『ゼロ』と呼ばれる、“魔力”による破壊プログラムです。私たちの戦いは、『ゼロ』を覚醒させるための儀式のようなものだったようです」

「なんだって!? じゃあこれまで僕たちが戦ってきたことは、全部仕組まれていたっていうのか! いったい誰が、何のためにそんなことをするんだよ!?」

「落ち着いてください、リブレ。理由はわかりません。しかし……魔王。彼女が仕組んだことであるということだけは、間違いないようです。彼女は何らかの理由をもって、『ゼロ』を成長、覚醒させ、『レッド・ゼロ』を完成させたかった」

「『レッド・ゼロ』……」

「はい。私たちがこの世界の私たちと戦った際、あちら側のソルテスが最後に見せた紅い“魔力”を伴った現象のことです。ここからは私の推測に過ぎませんが……『レッド・ゼロ』は、『ゼロ』の完成体。世界そのものを破壊するための力です。現に……」


 現に、彼らの世界は破壊された。

 グランは、机を殴りつけた。


「ふざけるなッ! じゃあ俺たちはもう、俺たちの世界に帰れないというのか! ここは確かに、俺たちの世界に似ている! 守ろうとしていたのも、俺たちにそっくりな連中だった! それでも……ここは、俺たちの世界じゃないッ!」

「はい。その通りです。この話には、続きがあります。……聞いてもらえますか」


 ビンスは、部屋の奥へと向かう。

 そこにはまだ、黒い扉が残されていた。

 ソルテスたちも、そちらへと向かう。


「この先にある空間のことを、便宜的に『スポット』と呼称します。原理はわかりませんが、『スポット』は異なる世界同士をつなぐ役目を担っているようです。世界同士がつながる条件は『ゼロ』を持っている人間がいることと考えられます」


 言いながらビンスは、扉に手を当てて“魔力”の珠をこしらえた。

 彼らにとっては忌々しい、例の空間が映り込んだ。

 先には、鉛色の扉が見える。


「『スポット』の先には、この世界と同じように、私たちがいた場所とは別の世界があるようです。――そこには、『ゼロ』を持つ人間がいます」


 ビンスが手に力を込めると、扉が、少しだけ開いた。

 ひとりの少年が、そこには映っていた。

 年の頃はソルテスと同じ、十歳前後。服装や、彼の背後に映される風景。全て一行が見たことのないものばかりだった。


「扉は、この少年だけを映しています。私は彼こそが、『ゼロ』を持つ人間だと確信しています。いずれこの少年と私たちは、戦う運命にあるのかもしれません。ですがソルテスの『ゼロ』が持つ『ブレイク』能力を、この少年の持つ『ゼロ』に掛け合わせて、破壊の力を極限にまで引き出せば……」

「まさか」


 レジーナが、絶句する。


「ええ。破壊の力を一個の物質に過剰集中させることで力場を作り出し、その力を物質の創造や再構築に利用する。ソルテスの得意技ですよね。もっと規模を大きくするのです。この少年をどうにかして『レッド・ゼロ』に覚醒させ、この世界と彼の世界を媒介として利用すれば……私たちの世界を再生させられるかもしれません」

「それが実現できる可能性は、どのくらいだ」

「……あくまでも理論上のことです。一パーセントあるか、どうかでしょう」


「話は決まった!」


 グランが声を張り上げた。


「可能性が僅かでもあるのなら、俺はその案に賭けたい。俺は、俺たちの世界を取り戻したい! それだけが望みだ! 俺はやる。この男と、この世界を利用して……! お前たちはどうする」


 リブレは、困惑している。


「でもグラン。この世界の人たちは、確かに生きているんだ。僕たちのことを、僕たちが殺したあいつらの事と勘違いして、世界が救われたって、喜んでいるんだ。……僕たちの世界のために、ようやく救われたこの世界を犠牲にするっていうのかい……僕には、そんなこと……」


 そこで、ミハイルが前に出た。


「ソルテス、俺の性格っていうか、人間性みたいなものを『破壊』してくれねえか」

「ミハイル!?」

「この世界のことなんて、どうでもいいと思えるくらいに。じゃねえと、リブレの言う通り、世界をぶっこわすなんてできねえんだ。だけどよ……俺だって、俺だって自分の世界を取り戻してえ! この世界には、弟のヴィクトールが、いねえ。理由は、それだけで充分だ」

「私も、お願いします」


 今度はビンスが手を上げる。


「可能性は一パーセントと言いましたが、ソルテスが魔王を倒せる確率は、私たちがあなたたちに出会った時点ではもっと低かったはず。『ゼロ』の力が持つ可能性は、それだけ強大です。ソルテス、あなたが望むのなら、私も全力で力を貸しましょう」


 レジーナも前に出た。


「同感ですわね。もとより、私たちの目的は、私たちの世界を救うこと。例えどんなに似ていたとしても、この世界は私たちからすれば偽物に他なりませんわ。偽物なんて、捨ててしまえばいい」


 グランは、頷いてソルテスを見た。

 彼女は、強い眼差しを彼に返した。

 答えは、それで充分だった。


 リブレは、そんな彼らを見てふるえている。


「本当に……本当にやるのかよ、みんな!?」


 ソルテスが剣を抜く。


「うん。リブレ、無理して付き合う必要はないよ。賛同できないと言うのなら、アンバーさんみたいに、抜けてもいい。でも……私たちは、やってみせる。何を犠牲にしてでも……どんなことをしてでも! 私たちは、私たちの世界を、取り戻すッ! もしも私がその『レッド・ゼロ』で消えてしまうのだとしても、構わないッ! 世界を取り戻す準備ができるまで、私は持ちこたえて見せる!」


 瞬間、彼女の「ゼロ」が発動する。

 輝きは真っ赤だったが、「レッド・ゼロ」として暴走することはないようだった。

 リブレを除く全員の体に、輝く亀裂が走る。

 彼はそれをしばらくきょろきょろと眺めていたが、やがて、ふっと笑って前に出た。


「今度は、世界を破壊する側か……まるで魔王だね。でも僕たちは進む意志を強く持つことで、ここまで戦ってこられた。勇気をもらえた。命を救われた。だから、ついて行くよ。ソルテス、僕にはきつい奴を頼むね」


 彼の体にも同様の亀裂が走る。

 ソルテスは、「ゼロ」の大剣を、天へと向けた。


「これより我らは、世界を取り戻すため! この世界の脅威へとなるッ! 私たちはもう勇者なんかじゃない! 世界を破壊する魔王軍だッ!」


 ソルテスは地へと大剣を突き刺す。紅い“魔力”が、一行の亀裂を破壊してゆく。

 彼女の髪が、真っ赤に染まった。


 新たな「魔王軍」が、誕生した瞬間であった。

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