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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第18話「勇者の旅路 明かされる真実」
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その9

 一体、何時間が経過しただろうか。

 戦局は、大勢が決した。


「ニセモノとは言え、能力はほぼ同じか。なんだか魔王より強かったような気がするよ」


 白のリブレが、汗をぬぐう。

 黒の一行は、ソルテスとアンバーを残し、全滅していた。

 対して白の一行は、全員が無事だった。


「くそっ……! グランさえ残っていれば……!」


 傷だらけのアンバーが毒づいたのも、無理もない話であった。

 勝負にここまでの差がついたのは、一行のリーダーたるグラン・グリーンの存在によるものであった。最初の攻撃でパーティの要だった彼を失った黒の一行は、終始白の一行に押され続けた。


 残った白のグランが、冷たい視線を黒の残党に向ける。


「俺たちは、何があっても全員が無事に帰らなければならない。悪く思うなよ」

「グラン、こいつらはニセモノだって」


 リブレに言われたが、グランは何も言わなかった。


「私たちだって……私たちだって、同じだッ! うわあああああっ!」


 白のアンバーが、ええいままよと突進する。

 だが、その体が瞬時にして燃え出す。

 グランは、その様子を無表情で眺めている。


「ああっ……。くそっ……シェリル……ロック……みん……な……!」

「アンバーさん!」


 黒こげになったアンバーは動かなくなった。

 黒い鎧を着た勇者だけが、残された。


 白の一行は、彼女を取り囲んだ。


「油断するなよ。このソルテスも『蒼きつるぎ』を使う。直撃を食えばビンスとレジーナの障壁でも一回耐えられるかどうかだ。確実に行くぞ。リブレはさっきと角度を変えて攻めろ。ビンスはドールを三体増やして連携だ。レジーナ、障壁をもっと強く狭めろ。ミハイルは第二攻撃に備えて“魔力”を溜めておけ」


 グランの指示が入り、戦闘態勢が作られる。


「ソルテス、相手はお前にそっくりだが、躊躇はないな。ほかの奴らも、皆迷わなかった」

「う、うん……」


 言いながら白のソルテスは、何とも言えない違和感を感じていた。

 目の前にいる、自分と仲間の亡骸たち。

 どうしてこんなことをしているのだろう。

 一体なぜ、こんな戦いを……。


「ちくしょう……」


 そこで、残った黒のソルテスが言った。


「やっとここまで来たのに。みんなで、ここまで来たのに。魔王を倒したのに……こんなのって、こんなのって、ないよ」


 グランたちはそれを無視して、彼女にとどめを刺す準備に入る。

 彼女はそれでも、敢えて自分の気持ちを言葉にしているようだった。

 白のソルテスだけが、武器を構えつつも複雑な表情でそれを見ていた。


「どうしてこんなことになっちゃったの。マヤちゃんやコリンになんて言えばいい。私のために死んだジャン、ロベルタ、ミシェルに。みんなになんて言えばいいの。……許さない。あなたたちの正体になんて、興味はない。ただ、絶対に許さない……」


「グラン、準備が整いましたわ」

「よし、行くぞ。全員、タイミングを合わせろ」


 グランが指示を出そうとした、その時。

 黒のソルテスが、うつむいたまま、強い憎悪を露わにして言い放った。


「お前たちとお前たちが大切にしているもの全て、破壊してやるッ! 『つるぎ』よ、そのための力を、私に……私に、よこせえぇっ!」


 彼女の体が紅く輝き出した。

 突風が吹き、グランたちは目を見張った。


「まずい……『紅い力』だ! やばいぞッ! あれはやばいッ! 全員、急げ!」


 黒のソルテスは悲鳴じみた声を上げながら、紅く輝く“魔力”を放出する。彼女の胸をつき破るようにして、紅い大剣が姿を現した。


「『蒼きつるぎ』……いや、この紅い、紅い剣よ! こいつらの体に、私のこの怒りを! 悲しみを! 虚しさをッ! 刻みつけろおおおッ!」


 グランは判断する。

 もう、攻撃は間に合わない。


「全員、攻撃をやめて全“魔力”を障壁に集めろッ!」

「うおおおおおおおおーーーッ!!」


 紅い剣が、同色の輝きを伴って放たれた。

 “魔力”を集中し、ぶ厚い障壁を張った白の一行だったが、剣はその頭上を越えて飛んでゆく。

 ビンスが後ろを振り返った。


「まさか!」


 その、まさかであった。

 紅い剣は、彼らのやってきた白い扉へと突き刺さった。


「お前たちの世界を、『破壊』するッ!」


 黒のソルテスの叫びと共に、輝きを増した紅い剣がぐるりと回転し、扉をこじ開ける。

 扉の先には、白の一行が死闘を演じていた魔王の城内部が見えた。


 グランが飛び出して剣を掴もうと試みたが、障壁に弾き飛ばされた。


「や……やめろおおおッ!」


 剣が回転を速めると、扉の先の世界が歪んでいった。

 キーンという耳を裂くような高音と共に、世界が回転を始める。

 魔王の城内部が、がらがらと崩壊してゆく。

 次に見えたのは海。そして、彼らが旅路の中で巡った街。人々。空。それらが映り込んでは消え、また消え、また消え。


 紅い剣は全てを飲み込み、最後に扉を破壊した。


「はははは……ははははははっ!」


 それを見た黒のソルテスは、狂ったように笑う。

 狂ったように笑いながら、涙を流した。

 だが彼女は、それでも笑い続けた。

 そうするしか、なかったのである。


 空間の中に、虚しい笑い声が響く。

 全員が、動けない。戦うための思考を、続けられない。

 黒のソルテスの体が、だんだんと透けて消えてゆく。

 彼女は最後まで、涙を流しながら、笑っていた。


 こうして、悲しみ以外何も生まなかった戦いが終わりを告げた。

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