その7
扉の中に入った一行は、すぐに体の自由を取り戻した。
「なんだ……ここは」
リブレが周囲を見回す。
そこは、青白い“魔力”の渦のようなものが無数に並ぶ空間だった。
見当もつかないほど広くも見えるが、一行は奇妙な息苦しさを覚えていた。
どん、と言う音とともに、背後の扉が閉まる。
ミハイルがすぐにそれを開けようと試みたが、びくともしない。
「くそっ! 閉じこめられたみたいだな」
ビンスは手のひらに“魔力”の珠を作り、それを深刻そうに覗いている。隣にいたレジーナも、それを見てはっとした。
「なんですの、これは……!?」
「信じられません……この空間は全て、ソルテスの『蒼きつるぎ』と同質の“魔力”のようなもので構築されているようです。私たちの知る“魔力”法則で実現できるようなものじゃない。ここは一体……?」
ビンスがソルテスを見やる。
先ほどまでの輝きは消えていたが、息を荒らげている。
グランが心配そうにその肩を掴む。
「大丈夫か、ソルテス?」
「うん……とりあえず収まったみたい。でも、胸騒ぎがする」
「どういうことだ?」
「わからないの……でも、ここにこれ以上いちゃいけない。そんな気がする……うっ!」
「ソルテス!」
ソルテスが再び苦しみ出すと共に、先ほどの紅い輝きが彼女の体からほとばしる。
グランがその体にふれようとしたその時、輝きが床へと移り、地を走っていった。
輝きは彼らの元から百メートルほど先に集まると、長く帯状に広がる。
そして彼らは見た。
先ほど、自分たちが入ってきた際と同じ形状の扉が、そこから現れるところを。
違っていたのは、色。
扉は真っ黒だった。
黒い扉が大きな音をたてて開かれる。
光が漏れ、グランたちは目を腕で覆った。
「一体なんなんだ、この扉は!?」
「体が、勝手に!」
誰かの声が聞こえる。
何者かが、自分たちと同じように入ってきたのだ。
どん、と扉が閉められる音が聞こえる。同時に視界が開けた。
何人かの男女が、周囲を見渡していた。
「なんなんだ、ここは」
金髪の魔術師風の男が、訝しげに上を見る。
「確かにさあ、僕ら、魔王を倒したよね……? もう、終わったんだよね?」
気弱そうな剣士が、おびえている。
「るせえぞ、まだわかんねーだろうが! 魔王が死んだって魔族がいなくなるわけじゃねえんだぞ!」
巨体を持つ男が、彼を一喝する。
「油断するな。誰かいるようだぞ。障壁を張れ」
凛とした雰囲気の女が、クナイに手をかけた。
「みんな、アンバーさんの言う通りにして。『つるぎ』の力が妙な方向に暴走している。ここには何か……」
最後に、黒い鎧を着た少女が、そこまで言い掛けて、やめた。
全員が驚愕のあまり、動けないでいた。
「なんだよ……これ……」
リブレだけが、静かに言った。
勇者一行の前に現れたのは、勇者一行だった。




