その4
蒼い剣を振るう少女・ソルテスと火炎魔法を使う青年・グランは、ベルスタを襲う魔族たちを軒並み撃退し、瞬く間に「伝説の『蒼きつるぎ』の勇者」「世界を救う救世主」と呼ばれる存在となった。
ベルスタの王は彼女に王都への永住権利を与えたが、ソルテスはそれを受け取らず、外国の魔族を倒す旅に出ることに決めた。彼女の怒りは、それだけ大きかったのである。
ベルスタ王国と陸続きになっている隣国・ザイド王国。
海を隔てた先にある、いくつかの集落が集まってできたラングウィッツ共和国。
小さな島国ヴァルス。砂漠の大陸タウラ。永久凍土に立つ極寒の地メルトナ。
少女は旅路の中で、魔族を倒し続けた。
ただ、ひたすらに。
魔族の中でも戦闘に特化した民族で作られる「魔王軍」との戦いが激化する中で、彼女は大切な仲間を得た。逆に、大事な人間を失ったこともあった。失った人間のほうが、遙かに多かった。
それでも、少女ソルテスは進み続けた。
そうして戦いの果て、彼女たちはとうとう魔王軍の長である「魔王」が拠点とする城までたどり着いた。
「てやああああっ!」
輝く剣を持ったソルテスの一撃が、魔族たちを一瞬にして散らす。
ソルテスの白い鎧が、その輝きを反射していた。
「やっぱりすごいや、ソルテスは」
臆病そうな剣士が言う。
その肩をグランが叩いた。
「おいリブレ、少しは緊張感持てよ。ここは魔王軍の本山だぞ」
リブレ・ラーソンは、にこりと笑う。
「そういうグランこそ。でも、ソルテスの『つるぎ』は最強だよ。僕らにも力を与えてくれた。じゃなきゃ、君たちと出会った日に僕は死んでいただろうね」
「そうですわね。『ブレイク』なしのリブレなんて、砂糖を使っていないケーキみたいなものですもの」
「レジーナ、それは言い過ぎですよ」
ビンス・マクブライトが苦笑する。レジーナ・アバネイルは口角を上げて彼を見た。
「でもビンスもそう思うでしょう?」
「ええ、まあ。確かにそうですけど」
「なんだよ、みんなして! 僕だってなあ!」
その様子を見ていたミハイル・テツナーが呆れた様子で肩をすくめた。
「なんだテメーら。嫌にリラックスしてるじゃねえか。これから魔王と一戦やらかそうって時によ。おかしくなっちまったのか? アンバーの奴が行かねえって言い出したのも、今ならわかる気がするぜ」
「だからこそだよ、ミハイル」
ソルテスが言った。
「アンバーさんが抜けたことは……確かにつらいけどさ、私たちはそれでも、ここまで進んできたし、進んで来られた。だからきっと、これでいいの。魔王と戦って、世界を平和にして。それで全部終わるんだよ、きっと。そしたらまた、みんなで旅を続けよう。このまま一緒に、ずっと」
「ああ。元から俺はそのつもりだ」
グランが即答する。
「だが、終わった後の話をするのは、ヤツを倒してからだ。諸悪の根元、人間の天敵……」
魔王。
彼女たちは、その本拠地の、魔王の部屋の目の前にたたずんでいた。
「行こう、みんな」
ソルテスが、金属製の大きな扉を開く。
そこにはつばの長い帽子を被った青年と、派手な黒いドレスをまとい、妖艶な雰囲気を放つ女性が立っていた。
「ようやく会えたわね、魔王。勇者ソルテスが、貴様を滅ぼす!」
「魔王」と呼ばれて、女性がにやりと笑った。
隣の青年が“魔力”を増幅させる。
「魔王様。ここはこのジェイにお任せを」
「もはやお前でも止められぬよ、このバカ者どもは。ここまで来てしまったというのなら、最大限のもてなしをしてやるのが魔王としての仕事だろう。来い、勇者よ。『ゼロ』の力を、この私に見せてみろ!」
戦いが始まった。




