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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第18話「勇者の旅路 明かされる真実」
165/212

その2

「なんだよ……これ……」


 隼人は、息を荒くしながら言った。


 タワーが、根本から折れている。


 公園の駐車場――だった場所――には大きな鉛色の塔が倒れていた。近くには警察車両が止められ、塔の近くに人が近づけないよう、警察官が黄色いテープで封鎖していた。周囲にはいくらかの人や、マスコミと思われる人たちがカメラを向けている。


「折笠あんた、どうしちゃったの? いきなり走りだして――」


 追いついてきた真矢が言い終わる前に、隼人は彼女の両肩を掴んだ。


「なあ、おい! いったい、なんなんだよこれはッ!? 一体何があったんだ!? どうしてこんなことになっちまったんだ!!」

「ちょっと、落ち着いてよ! 原因はわからないって、テレビで一日中やってるじゃない!」


 隼人は真矢を解放する。


「わ、悪い」


 真矢は怪訝な顔をして首をひねった。

 隼人は人を押しのけ、テープの張られている最前列から改めてその光景を見る。


「ちょっと君、入らないで」


 警察官に注意されたが、隼人は必死に身を乗り出して、倒れたタワーをじっくりと見た。


 そして、奇妙だと思った。


 その断面が、あまりにも綺麗だったのである。


「うっ……うっ……」


 すぐ横で、泣いている人がいた。キャップを深くかぶった、背の高い女性だった。


「どうしてよ……どうして……石田……」


 隼人は、またしても奇妙な感覚に襲われた。

 聞いたことのある声だった。


「あ、あの」


 隼人が話しかけると、女性がこちらを見た。

 二人の目が合う。


「……あなたは……?」


 涙を流す女性は、不思議そうに言った。

 隼人は、ふと言った。


「……みらんだ、さん?」


 自分でも、何を言っているんだと思った。

 全く、知りもしない単語だった。

 だが、自然と出た言葉だった。


「い、いえ。人違いだと思いますけど……。でも、どこかで会いましたよね。もしかして石田……の知り合いですか?」

「いえ……」


 だが、言われなくてもわかった。石田という人物はきっと、真矢の言う「下敷きになって亡くなった人」なのだろう。


「ちょっと折笠、さっきから何やってんのよ。早く戻りましょう」

「あ、ああ……」


 真矢が追いついてきたので、隼人は女性に会釈し、その場を去った。

 女性は、首をひねった。


「あの子、どこかで……?」



 隼人は結局そのまま、真矢と二人で買い物をして帰宅した。

 しかし、そんな中でも何かが、彼の胸にひっかかっていた。


「ただいま」


 家には、誰もいない。

 親はまだ仕事だろう。隼人は帰りにコンビニで買ったカップめんを作りながら、テレビをつけた。


『……したタワーの事故責任を取る形で、本日、小泉町町長の恩田氏が辞任を表明しました』


 真矢の言う通り、さきほどまで見ていたタワーの話題がワイドショーで放送されていた。

 テレビには何度か見たことのある町長が深く頭を下げ、カメラのストロボが一斉に浴びせられていた。

 ひたすらに謝罪する町長の会見の様子が終わった後、改めてタワーの映像が映し出された。

 隼人は、カップめんに湯を注いで、テーブルへと置いた。


『時刻が深夜だったこともあり、現在でもこのタワーの倒壊原因はわかっていません。今回の倒壊事故で亡くなった石田明さんが何らかの形で関わっていたのではないかと見られており、警察による捜査が進められています』


 事故で死亡したという「石田明」の顔が画面に映った。


「えっ……!?」


 隼人は思わず、言った。

 見たことがある、顔だった。知り合いにこんな男がいただろうか。だが、知っている。

 そうだ、この男は。


「ろばーと、さん……ロ……ロバートさんっ!?」


 ハヤトは、鮮烈に思い出す。

 記憶がどんどんとよみがえってくる。


「そうだ……! さっきのは、ミランダさん……! ミランダさんじゃないか! どうして俺、こんなことを忘れてたんだ……それに、なんでこっちに戻って来てるんだ!?」


「ようやく、お目覚めね。勇者ハヤト」


 すぐ近くから声が聞こえて、ハヤトは振り返った。

 なぜ、気づかなかったのか?

 少女は、自分のすぐ後ろのソファに、座っていた。


「ル、ルー……!?」


 イヌ科を思わせる三角耳を生やした少女が、そこにはいた。

 

「ルー……どうしてこんな所に? みんなは、みんなはどうなったんだよ?」


 ハヤトはそこまで言って、違和感に気がついた。


 目の前にいる少女、ルー・アビントン。

 頼りになる、自分の大切な仲間。


 だが、違う。

 彼女は、普段の無邪気な様子からは考えられないほど、冷たくほほえんでいた。

 雰囲気がまるで違っていたのだ。


「君はルー……なのか?」


 少女は、ソファから立ち上がった。


「そうよ。でも、あなたにわかりやすく言うとすれば、違うわ。私はあなたが知っているルー・アビントンじゃない」


 口調も、声色も。普段のルーとはかけ離れていた。


「どういうことだ」

「ルーは私の中で眠っている。そうねえ……多重人格みたいなものだと思ってもらえればいいかな。私はルーであって、ルーではない」

「じゃあ……君は何者だ」

「それを教える前に、あなたには知らなければならないことがあるわ。運命を選ぶ時が、来てしまったのよ。『レッド・ゼロ』が覚醒しつつある今、もう残されている時間はそう長くない」

「ちょっと待ってくれ! 言っていることの意味が全くわからない!」

「今、理解する必要はないの。これから、全部見せるから。それで判断しなさい。だから、よく見なさい。あの子の旅路を」


 少女の手が、輝く。

 ハヤトの視界が、真っ白になった。

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