表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イモータル・マインド  作者: んきゅ
第17話「聖域の塔 運命のはじまり」
162/212

その11(終)

「えっ……」


 起きあがったミランダが、思わず言った。

 これまで想像したこともない光景が、目の前に広がっていた。


 ロバートの体に、剣が突き刺さって――。

 体から、血がどろどろと垂れている。

 彼の胸を貫いた刀身には、べっとりとその血が付着していた。


「ちっ……お前じゃねえ。いったいどうやって今の一瞬で移動して来やがった」


 グランは面倒そうに言うと、剣を引き抜いて彼を蹴りとばした。

 体がら血が吹き出て、ロバートは力なく倒れた。


「えっ、なんだよ、これ……」


 ミランダは、声を震わせた。

 グランはもう一度剣を彼女へと向けたが、すぐに電撃を散らしながらマヤが現れ、それを阻んだ。


「シェリルさん、すぐに回復を!」


 マヤは「翼」を生やし、つばぜり合いをしている状態のまま、グランを宙に連れて行った。


 シェリルは、倒れたロバートにすぐさま回復魔法をかける。

 ミランダはそこでようやくはっとして、その体にかけよって叫んだ。


「ロバート! ロバートしっかりしろ!」


 だがシェリルは、回復をやめた。


「おいシェリル、何やってんだ! 続けろ!」


 シェリルの顔は蒼白していた。


「どういうこと……? “魔力”を、感じません。心臓を貫かれていても、“魔力”が全て放出されるまでは時間がかかるのに……。も、もう……ロバートさんは……」


 ロバートの胸部から、血がどろどろとあふれ出てくる。

 ミランダは必死に、それを止めようと試みる。

 彼の体はぴくりともしない。


「バカ言ってんじゃないよ! いいから続けろ! おいロバート、ふざけんな! ふざけんじゃねえぞっ! 起きろ、起きろおっ!!」


「無駄だ」


 空中でマヤとつばぜり合いを続けていたグランは、ふっと姿を消した。


「この剣は、ソルテスの『ゼロ』を使って何ヶ月もかけて構築したものだ。刺さったら最後、一瞬で生命力を抜き尽くす。一撃必殺って奴だな。まあ、一人分で使い物にならなくなるが。さあどうする、勇者」


「ロバートさん!」


 ものすごい形相をして、ハヤトがミランダたちの元へとやってきた。


「シェリルさん、回復は!?」

「今、あるだけの力でやっています……でも……」

「そんなっ!」


 ロバートの顔を見やる。

 生気がない。それどころか、顔も真っ青になっており、もう死んでから何時間も経ったのではとすら思えた。


 ハヤトの顔は絶望にひきつった。


 あっては、ならないことだ。


「剣よ、『蒼きつるぎ』よ! 出ろ、出てくれ! 今ならきっと、こんなダメージ『破壊』できるんだ! 出やがれちくしょうっ!」


 グランはそんな彼を見つつも、背を向けて言った。


「ターゲットは変わっちまったが、終わったぞ。ソルテス」

「ありがとう、グラン」



 部屋の中央に、紅い髪の魔王が現れた。



「ソルテス!」


 コリンが攻撃を試みたが、ソルテスは指をちょい、と持ち上げた。それだけで、コリンの体は壁へと叩きつけられていった。

 ハヤトは、立ち上がって声を上げた。


「ユイっ! 『蒼きつるぎ』の力を、返してくれッ! 今ならまだ間に合うかもしれないんだっ!」


 ソルテスは目を細め、ふうと息を吐いた。


「まだわからないの、勇者。『冒険』はもう、終わったの。勇者と魔王は、殺し合うんだよ。私たちの未来は、殺し合いしかないって、言ったよね。それと……『つるぎ』の力が戻ったところで、その男は生き返らない。その男は、私たちが殺した」


 ハヤトの目元から、涙がこぼれる。


「なんなんだよ……ワケがわかんねえよ! どうしてこんなことをする必要があるんだっ! 答えろ、ユイッ!」

「――失った全てを、取り戻すため。憎むなら憎め。私はソルテス。魔王、ソルテスだ……。ここでお前ら全員を、殺す」


 ソルテスは手を上方へ掲げ、「紅きやいば」を呼び出す。

 彼女の瞳が紅く輝き、体全体へと広がる。


 同時に、彼女を囲むようにして、何人かの男女が現れた。


「なあ、まだ俺は誰も殺してねえぞ」


 巨漢、ミハイル・テツナーが腕を組む。


「あなた、何も理解してませんのね。これだから野蛮人は」


 ウェーブのかかった長髪の魔術師、レジーナ・アバネイルが薄く笑う。


「会いたかったぜハヤト。君をブッ殺すのを、ずっと楽しみにしていた。この傷を見ながら、毎日心待ちにしていたよ」


 緑髪の剣士、リブレ・ラーソンが頬に刻まれた傷をそっと撫でる。


「ロバートは死んだようだね。残念だ、僕が殺せなくて。さあハヤト、最後のカードを切るなら早くしなよ」


 傷だらけのビンス・マクブライトがほほえむ。


「俺たちは」


 最後にグラン・グリーンが先頭に立った。

 

「俺たち魔王軍は、世界を破壊する。そして全てを、取り戻す! ハヤト、お前たちにはそのための礎になってもらう!」


「てめえら……」


 ハヤトの中で、ぷつん、と何かがはじけた。



「てめえらああああああっ!!」



 彼の体に、輝く亀裂が走る。

 ソルテスは、それを見てにやりと笑った。


「よくも! よくもロバートさんを! お前らだけは、絶対に許さねえ! お前らがそのつもりなら……殺してやる。一人残らず殺してやるぞ!」


「ハヤト君!」

「ハヤトさん!」

「ハヤトっ!」


 仲間の声は、もはや彼には届かない。

 ハヤトの体に刻まれた亀裂から、紅い“魔力”が吹き出した。


 ビンスがそれを見て口角を上げた。


「殻が、破れたねえ」


 ハヤトは悲鳴に近い叫び声を上げながら、体中からこみ上げる力を全て解放する。


 彼の体を突き破るようにして、紅い大剣が姿を現した。

 ハヤトは、それを両手に取って、大きく振りかぶった。


「ソルテエエエエスッ!」


「来るぞ! 全員、タイミングを逃すなよ!」


 グランが指示を出すと、魔王軍一行は、手を広げて“魔力”を展開する。


「来い、『レッド・ゼロ』。俺たちの世界を破壊した悪魔よ!」

「おおおおおおおおッ!!」

 

 ハヤトが剣を振り切ろうとした、その時であった。


「――全く、つまらない展開ね。全部予定調和じゃない」


 一人の少女が、彼の目の前に立った。


 マヤが、声を上げた。


「ルーちゃん!?」


 ビンスが目を見開いた。


「来た……!」


 ルーは、意地悪げににやけながらハヤトに抱きつき、魔王軍に向かって言った。


「悪いけどこの子、しばらく預かるから。ここからは予想のできないゲームになるわよ。せいぜい楽しんで、にせ魔王軍のみなさん」


 グランがその声を聞いて、血相を変えた。


「貴様……まさか!?」

「おおおおおおおおおッ!!」


 ハヤトの叫びと共に紅い輝きが、部屋を包んでゆく。

 十字を象った“魔力”の塊が、広がっていった。


 針のようにして真上に突きだした塊の上部が、塔の頂上に浮いていた宝玉を破壊する。


 そして、そびえ立つ塔が、割られるようにして切り裂かれた。

 部屋全体がぐらりと揺れたところで、ハヤトの意識は失われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ