その2
隼人は目を覚ました。
ベッドの上のようだ。ただ、この天井は初めて見る。
唯はどこに言ったのだろう。
「兄さん……」
近くから声が聞こえた。
「唯!?」
隼人はがばりと起きあがった。……が、途中でそれを阻まれた。自分の腕に、誰かがからみついている。
見てみると金髪の少女が、シャツ一枚で横に眠っていた。
「も、森野!?」
いや、森野真矢ではない。マヤだ。
あの夢のような世界に戻ってきたのだ。
「兄さん、いかないで……」
マヤはひしと隼人の腕にだきついた。二の腕部分にとても柔らかいものが当たり、隼人は硬直する。シャツの襟元がよれて、白い肌がのぞいていた。
「兄さ……ん?」
ふと、マヤの目がぱちりと開いた。
二人の目があう。
硬直。
隼人はおそるおそる言った。
「お、おはようございま」
悲鳴とともに、部屋中のものが飛んだ。
隼人は、前日に起こった出来事を簡単にマヤから説明された。
英雄だったソルテスが魔王として世界に宣戦布告したこと。
そしてベルスタに住むほぼ全員が、「蒼きつるぎ」の勇者が、レッド・ドラゴンを斬るところを見たこと。
「覚えてるよ、そのくらいは。最後のドラゴンのときは、必死だったからぼんやりしてるけど」
「よし、とくに記憶に問題はないわね。あの後すぐに気を失っちゃったから、心配したわ。とにかく城まで来てちょうだい。ベルスタ王が会いたがっているわ」
「……」
「なに、なんで黙るの?」
隼人は傷だらけの頬をさすった。
「あんなに寝相が悪いなら、どうして俺を自分の家に泊めたの? どこか別の場所に寝かせておけばよかったじゃん。ああ、いてぇ」
マヤは突如として真っ赤になった。
「ち、違うんだからね! ヘンな想像しないで!……あなたをここに連れてきたのは、私だからね。気を失っている間は責任を取りたかったのよ。さあ、行きましょう」
隼人たちは城へと向かい、歩いていった。
外壁がなくなったベルスタの様子は、昨日までとはうってかわってしまっていた。
通行人の数が多く、大きな荷物を積んだ馬車がいくつも通った。
「ベルスタが誇る外壁がなくなっちゃったからね。近辺に強いモンスターはいないけど、魔王の攻撃の標的にされちゃったわけだから、ここを離れようって考えるのも、無理ないわ」
マヤがさびしげに言った。
「魔王復活の噂は、きっと今に世界中に広まる。たぶんそれが魔王のねらいよ。でも……今回はドラゴンを一刀両断にした『蒼きつるぎ』の勇者の話とセットだわ」
「お、俺か? 大丈夫かよ」
マヤはほほえんで頷いた。
「何いってるの、自信持って。あなたが昨日やったことは、とてつもない快挙なのよ。魔王の目的は半分失敗したも同然なんだから」
隼人は息をついて空を見上げた。
同じなのは、この空の色だけだ。