その7
「ちっ、よけやがったか。スピードはまあまあだな」
砂煙を払って、ミハイルが言った。
その胸ぐらを、ビンスが掴む。ロバートにやられた腕はすでに復活している。
「おい、肉ダンゴ! なんてことをしてくれたんだっ! どうして勇者をここに連れて来た!」
「……お前、誰だっけ?」
ビンスは怒りを露わにして舌打ちすると、彼を解放した。
「低脳が……。全く、ふざけている。こんなバカみたいなタイミングで、ロバートが『ブレイク』だと……」
砂煙が散る。そこにはロバートが立っていた。
彼の傷は、ほとんどが消えていた。
「同感だ。だが神様も捨てたもんじゃねえ」
「僕のかわいいドールたち! そいつらを蹴散らせ!」
ビンスはドールを六体ほど召還し、彼に向かわせる。
対して、ロバートは手を広げた。
「不思議なもんだな……やるべきことがわかる。こいつは、俺たちが前に進んで行くための力。俺が進むということは、ハヤト君が進むということだ。こいつは……」
彼の手元に“魔力”が集中し、握った手と手の間に、淡い緑色に輝く光が現れた。光は矢を象った。
「君のための『矢』だ!」
ロバートが右手を開くと、“魔力”の矢が発射される。
矢はドールの元まで一瞬にして向かうと、その場ではじけて複数の矢に分裂した。
矢はどかどかどか、と激しい音を立てながらドールを次々と串刺しにし、地面へと張り付けた。さらに飛行中の数本が分岐し、一本はシェリルを拘束していた障壁へと刺さり、彼女を解放した。残りは、ビンスとミハイルの方へ向かう。
「ちっ!」
ビンスは横にそれてそれをかわしたが、矢はさらに分裂して彼の右腕に突き刺さった。矢は立て続けに分裂し、次々と彼を襲う。
「ぐあああっ!」
ミハイルは避けもせず、それを腹に受けた。
「チイ……」
矢が分裂し、全身に突きささる。ミハイルは身を守るようにしてそれを受け止めたが、衝撃で壁にぶち当たりながら通路の先に吹き飛ばされていった。
「す、すげえ、なんだあこりゃ。とんでもねえな、『ブレイク』能力ってのは」
能力を使った本人であるロバートは、口をあんぐりとあけた。
ハヤトがロバートに問う。
「ロバートさんたちはビンスと……大丈夫ですか?」
「あ、ああ! ありがとよハヤト君。どうやら『ブレイク』したおかげで助かった。ミランダたちには会ったかい?」
「いえ……。俺たちはさっきのごつい奴と戦っていました。あいつもかなりの強さです」
「そうか、じゃあ急がなきゃな。ビンス! ハヤト君の『蒼きつるぎ』の能力をはやく返しやがれ! そうしたらその『矢』から解放してやるぜ」
ビンスは「矢」の攻撃を受けながらも、笑う。
「言ったろ……僕は奪った訳じゃない……! ハヤトのためを思って封印したんだ……ま……それでも取り戻したいなら、ソルテスちゃんのところまで急ぐことだね……! ミランダは今頃、どうなってるかな? たぶん彼女……死ぬよ。グランが行ったからね……」
四人は、顔を見合わせる。
ほぼ同時に、マヤが走り出した。
「待て、マヤ!」
ハヤトが追いかける。シェリルもそれに続く。
ロバートはビンスに、静かに言った。
「しばらく、それを食らってやがれ。じきに姉御を連れてくるからよ」
ビンスはそれを聞いて、狂ったように笑った。
ロバートは不気味に感じつつも、ハヤトたちの後を追った。
ビンスは、彼が去ったあとも、笑っていた。
いつまで続くかもわからない攻撃を受けながら、笑っていた。
「ははは……『ブレイク』人数は、これで最低でも五人……『レッド・ゼロ』への駒は、間違いなく揃った。これでようやく、始められるんだ……ははは……!」




