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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第17話「聖域の塔 運命のはじまり」
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その5

 炎に包まれたミランダは地面に倒れ込み、声を上げてその場に転がった。


「ぐああああッ!」

「ミランダ!」


 コリンがかけより、バッグに入っていた外套で彼女をはたいた。

 ミランダはがなりたてるように叫んだ。


「戦闘中だ! 奴の追撃に備えろッ!」

「で、でもっ!」


 しかし当のグランは、腕を組んだままそれを見ている。

 彼は後ろを向いて言った。


「別にいいよ。その炎、どうやっても消えねえから。そいつが死ぬまで消火作業、がんばれ」


 コリンはその後ろ姿をにらみつつも、必死に外套で彼女の体についた火を消そうと試みる。

 だが、彼の言う通り、炎は消える気配すら見せない。風が当たっているはずなのだが、それに影響されてゆらめいたりしないのである。

 消すどころか、外套に炎が燃え移ってしまい、コリンはそれを投げ捨てた。


 普通の魔法ではない。


 ミランダは体を焼かれる苦しみに耐えながら、地面を叩いた。

 奴の魔法が出る瞬間を逃したのか。

 それとも、時限装置がある罠のような魔法だったのか。

 どちらにせよ、してやられてしまった。

 こうなってしまっては、もう能力を使わなければ命が危ない。


 幸い、グランは今、後ろを向いている。

 「どうやっても消えねえ」炎とやらの力を信じて、油断しているのだ。


 今だ。今しかない。 

 今できる、全ての力を込めて攻撃するしかない。


 ミランダは痛みをこらえながら、足に力を込める。

 体が光り、「白銀の鎧」が炎を吹き飛ばしながら彼女の体に装着される。

 ほぼ同時に、地面を蹴って猛烈な勢いで突進した。


「おおおおおおッ!」


 一瞬にして距離が詰まる。


 ミランダの槍が、グランの背中を捉えた。




「ぐっ……」


 ロバートは、折れた弓を地面に突き立てながらなんとか立ち上がった。

 その顔は腫れに腫れ、もはや元の顔がわからないような状態になっていた。

 息は荒く、地面には彼の血しぶきが滴っていた。


「おいおいロバート、もう息切れかい? そんな体たらくでよくもまあ、ミランダを助けるだなんて大見得切ったもんだね」


 彼の目の前には、大笑いしながら彼を見るビンスがいた。すぐ隣にはドレスを着た「ドール」が控えている。その腕には、ロバートの血液が大量に付着していた。


「へっ……助けるどころか嫌われっぱなしのお前に言われたくねえ、よ」


 ロバートは途切れ途切れに言った。


「ロバートさん、逃げてっ!」


 すぐ近くに、シェリルが立っている。周囲には半透明の障壁が展開され、彼女を閉じこめていた。

 ビンスはそれを聞いて、表情を変えずに言った。


「巨乳のお姉さん。僕もね、そこが見たいんだよ。傭兵時代から正義漢気取りのこの男がさあ、仲間を見捨てて、しっぽを巻いて情けなく逃げるところ。なあロバート。きみ、状況分かってる? このままだと、間違いなく死ぬんだぜ? それとも『ブレイク』の加護を受けていない奴が、僕に勝てるとでも思ってる? だから早く逃げよう。逃げちまおう。そんな安っぽいプライドなんて捨てちまおう」

「黙れ……よ」


 ロバートは、腰にくくり付けていた直刃の短剣を抜いた。


「ビンス……お前は、うちの姉御が絶対に許さねえってさ。だから、俺もだ。俺もお前を許さない。世界の危機がどうだとか、『蒼きつるぎ』がどうだとか、そんなのはどうだっていい。お前は俺たちをだましたんだ。だから、ぶっ飛ばす。それだけだ!」


 ビンスは黙ったまま、人差し指をくいとたてた。

 「ドール」が彼の元へと移動し、容赦なく殴り始めた。


「痛い? 逃げないと、続くよ」


 しかしロバートは、それを食らいながらもビンスの元へと走る。


 ロバートには、わかっていた。

 パーティが分断された状態で魔王軍と出会ってしまった以上、彼らの狙いははっきりとしている。


 彼らは確実にここで、自分たちを殺そうとしている。


 これまで彼らはなぜか、ハヤトを始めとした自分たち勇者一行に対し、戦力を分散させ、あえて手を抜いて戦いを挑んできていたようだった。

 きっと彼らには何か目的があったのだ。


 それが一体どういった事柄なのかはわからないが、おそらくは、その目的を達しつつあるのであろう。だからこそ、彼らは容赦なく自分たちを殺しに来ている。


 ビンスは逃げろ逃げろと言っているが、おそらく逃げ切ることはできない。進んだ先に障壁や罠が張られている可能性が高い。ビンスはそういうことに抜け目のないというか、むしろそういう部分に力を注ぐ男だ。


 この戦いは、もはや詰んでいるのかもしれない。


 それでも、できることはある。

 混濁した意識の中で、ロバートはそう考えていた。


 自分の体が、ダメージで動かなくなりつつある。


 それでも。


『簡単に、諦めるんじゃねえ!』


 従姉妹の言葉が、彼を動かしていた。


「おらああああっ!」


 ロバートは「ドール」を押しのけながら、ビンスの元へと向かう。彼はそれを見ても微動だにしない。


 それもそのはず、彼の周りには強力な「障壁」が取り囲んでいる。

 剣を突き立てたロバートだったが、その“魔力”の壁が無情にもそれをまっぷたつに折った。


 ビンスはにこりと笑う。


「ワンパターンだね。僕の障壁は何度も何度も見せたはずだけど。もう逃げる気力すら失っちゃったのかい?」

「諦めねえ……俺は絶対に諦めねえぞっ!」

「そんな思考停止の根性論で僕に挑もうなんて、本当に笑えないなあ」


 ビンスが指を弾くと、「ドール」がすぐさま彼を拘束する。


「ロバート、君は本当に頑固でどうしようもないね。どうやら死ぬしかなさそうだよ」


 彼はいいながら、「ドール」をけしかけて殴らせる。

 ロバートはその場に仰向けになって倒れた。


「はあ、はあ……」

「ロバートさん! ロバートさんっ!」


 シェリルが必死に叫ぶ。

 彼女は自分を隔離している障壁を壊そうと、必死に“魔力”を練っている。

 だが、ビンスの作る障壁は非常に強固なもので、反応すら示さない。


 ビンスはロバートの頭を蹴りつけ、腹を踏みつける。

 彼の手に“魔力”が集中する。


「じゃあ、そろそろ死んでもらおうか。じゃあね、ロバート。君といた傭兵時代は、本当に楽しかった」


 ビンスが魔法を撃とうと試みたその時。

 ロバートは出せる力全てを振り絞って起き上がり、その腕を抱き抱えるようにして掴んだ。

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