その4
「マヤのアニキか……! ビンスはどこにいる! アタシはあいつに用がある!」
ミランダは気丈に言い放った。
グラン・グリーン。魔王軍の中心メンバー。おそらく、ビンスよりも遙かに強い。何よりマヤの旅の目的でもある人物だ。本来なら説得したい。
それでも、今は敵同士。同じ部屋で出会ってしまったのだから、もう後には引けない。
グランは扉を閉じて、勇者一行のふたりを見据えた。
「……そうか、お前はビンスの奴が任務で動いていた時期に一緒にいた女らしいな」
「そういうこった。正直、あんたには興味がねえ。奴を出せ」
「ここにはいない。出すこともできない。そして俺はお前に用がある」
「……どういうことだ?」
「お前が知る必要はない」
グランは、二人に向かって歩き出す。
ミランダは槍を持って身構えたが、その前にコリンが立った。
「グラン」
グランは足を止めない。
「事情を聞かせて。どうしてこんなことになってしまったの。あなたは五年前、確かに言ったわよね。魔王を倒して世界を救うって。それがどうして、魔王の一味として世界をめちゃくちゃにしようとする側に立っているの」
グランは歩みを止めない。
コリンは顔を険しくさせると、両腕を顔の前に出し、十字を作った。
「答えて。ソルテスの髪色が変わっているのはなぜ。どうして、あんな風になってしまったの。どうして、私たちにあんなことを言ったの? なにか、大変なことが起きているんじゃないの!?」
「黙れ」
「答えろっ!」
コリンの能力が発動する。
地面を弾けさせながら、グランに向かって無数の“魔力”の糸が飛ぶ。
グランは歩いたまま“魔力”を放出し、それを防いだ。
だが、コリンは攻撃を止めない。
糸を結び合わせ、先ほどと同じように鎖を作り出す。
地面から生えたいくつもの鎖が、グランの体や足に巻き付いた。ここで、ようやく彼の歩みが止まった。
「ソルテスは……あんなことを言う子じゃなかった! 言える子じゃなかった! あなたたちは何か理由があって……『魔王軍』を演じてるんじゃないの!?」
グランは舌打ちした。
「うるせえ奴だな。お前がどう思おうと、お前の勝手だ」
「だが」、と彼が言ったと同時に、鎖が糸も簡単にはちきれた。
「俺は、魔王軍のグラン・グリーンだ。俺たちは、この世界をぶっ壊す!」
グランが体中から“魔力”がほとばしった。
「だったら、話は決まったな! コリン、合わせな!」
ミランダがそこにむかって走り出した。
コリンは悔しそうな表情をしながら、人差し指をくいとひねる。
ミランダの走る地面がはじけ、彼女は上空にとんだ。
「おらああああっ! いくぞこらあッ!」
ミランダは、大声を出しながらも、冷静に考えていた。
そう、演じていた。
以前聞いたマヤの話によると、グラン・グリーンは電撃魔法が得意な魔術師タイプ。体術は得意ではないらしい。
そして何より、勇者一行は元魔王軍メンバーのアンバー・メイリッジから、事前に聞いている。
グラン・グリーンの「ブレイク」能力は、「魔力の増大」である。
アンバーの話では、電撃魔法をさらに強める特化型のものだという。
ミランダはそれを聞いた時、「自分の能力なら、彼をしとめることができる」と考えた。
たとえどんな強い能力を持っていようと、それが“魔力”を介するものである限り、ミランダの「白銀の鎧」はそれを完全に拒否、消滅させることができる。
発動できる時間は非常に短いものの、アンバー戦の時のように、相手が知らぬまま一度決めることができれば、それは直接の勝利に繋がるのである。
だからこそ、ミランダは春の都で能力を発動させなかった。
その一瞬をついて、ビンスを倒すために。
今回は、運悪く相手がグランになってしまった。
少しばかり、マヤに悪いと思う気持ちもある。
だが、そんな甘いことを考えて倒せるような敵ではない。魔王軍にはハヤトと同じ力を持つ魔王がいる。世界を掌握する力がある。
やらなければ、こちらがやられる。
だったら、殺すつもりでやるしかない。
彼が魔法を放った一瞬の隙を狙って、自分の能力を発動。
相手が驚く間もなく、殺しきる。
死ななければ手足を切り刻み、戦力としての価値を完全に削ぐ。
そうなれば、形はどうあれマヤの宿願も叶うだろう。
それでも今、このチャンスに殺しきってしまうのが第一だ。
だからこそ、ミランダは決意して飛び込んだ。
あえて、魔法を撃ちやすいであろう彼の正面・空中にその身をさらしたのである。
「くらえええええっ!」
空中から槍で突進をかける。
鎧の発動は、グランの電撃魔法が来た、その瞬間だ。
ミランダは全神経を集中させる。
グランの体が、どんどん近づいてゆく。
彼は上を見上げつつも、こちらを見下すような表情をしていた。
ミランダは、心の中で舌打ちする。
この状況で、彼は何もしようとしてこない。
魔法を誘っているのが、バレているのだろうか。
だが、体術が得意でないのなら、接近戦に持って行くのみ。
このまま攻撃を継続し、改めて魔法を使う時に狙えばいい。
しかしその時、思いもよらないことが起きた。
「ッ!?」
自分の体が、すでに炎上していたのだ。




