その2
まさに巨漢と呼ぶにふさわしい男だった。
肩幅は先ほどまでいたグラン・グリーンの倍ほど。
その腕や脚は、丸太のように太い。
ミハイルと呼ばれたその男は、腕を上げて構えた。
「おれはミハイル・テツナーという。……そういえば、グランの奴から聞くのを忘れていた。きさまら、どちらが勇者だ?」
「……俺だ」
ハヤトが剣を握りなおして言う。
だが、ミハイルは目をぎょろりとさせながらマヤを見て笑った。
「いい女だな、お前。殺したくてしょうがねえ。たいそうキレーな声を出すんだろうなあ、オイ」
二人は思わず、汗をにじませた。
話が全く通じていない。これまでの魔王軍とは違った不気味さがある。
「いろんな方法を試したいな……まずいくつか手足を折るところから始めようか……。でも、それだけで死んじまったらつまらねえしな。気絶させてから、料理するって手もある」
ミハイルがぶつぶつ言っている間に、ハヤトとマヤは目配せして、頷きあう。
「そうだ。まずそっちの男のほうで試してから――」
「『ヴォルト』ッ!」
ミハイルが言い終わる前に、マヤの電撃魔法が炸裂する。
「ブレイク」や秋の里での修行を経たこともあってか、その威力は以前の数倍にも上がっている。轟音が通路に響き、階段を破壊する。
ミハイルの背後には、すでにハヤトが「空踏み」で回っている。
彼は“魔力”を自分の剣に集中させる。
「蒼きつるぎ」は使えないが、彼の“魔力”技術も、里での修行で大幅に成長している。
「いくぞッ! 『剛刃』!」
ハヤトの言霊と共に、剣そのものを囲うようにして大きな“魔力”の刃が姿を現す。空を踏み、ハヤトは斬撃をミハイルに向けた。
「うらあッ!」
だが、ミハイルは怒号と共に“魔力”を放出した。
ハヤトの「剛刃」は一瞬にして砕け散り、上方に体を投げ飛ばされる。
マヤは床に刀を刺して突風をこらえた。
「まだどうするか考えてるところだろうが! 邪魔するんじゃねえ! ブチ殺すぞ!」
ミハイルは狂ったように叫んだ。
なんとか着地したハヤトは、すぐに体勢を立て直す。
だが、思わず言った。
「マヤの電撃魔法が効いてないっていうのか……!?」
「魔法!? 何のことだ! 知らねえぞ、おれは!」
ミハイルがのしのしと階段を登ってくる。
ハヤトは再び“魔力”で大剣を作り出す。
「マヤ、合わせてくれ!」
「ええっ!」
ミハイルを囲む形になった二人は、同時攻撃をしかける。
ハヤトの袈裟斬りがヒットしたところで、加速するマヤが逆方向から斬撃を浴びせる。
二人の連携がリズムよくバシバシと決まる。
だが、ミハイルはそれをものともしない。
武器の攻撃が、全く通っていないのだ。
二人はそれに驚愕しつつも、全力で攻撃を続けるしかない。
「お前等、おれをなんとしても怒らせたいらしいな……」
ミハイルは、眉間に皺をよせて腕に力を込めた。
ハヤトはそれを見て即座に判断する。
この攻撃は、危険だ!
「うおおおおおおーーーッ!」
ミハイルは大振りのストレートをハヤトに見舞う。
回避に集中していた彼は、空を踏んですでに空中にいた。
その刹那、床に大きな穴が開いた。




