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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第17話「聖域の塔 運命のはじまり」
152/212

その1

 ハヤトは迷うことなく剣を抜く。

 隣のマヤは、「紫電」の柄に手をかけたが、そこで躊躇した。


「兄さん……!」


 彼女は階段の先で対峙する、男を見る。

 

 グラン・グリーン。マヤの兄。

 彼女の旅の目的が、今まさに目の前にいる。


「この間もそんなことを言っていたな、女」


 グランはほんの少しばかり笑みを浮かべて、マヤに言った。

 それを聞いて彼女の心は、再び張り裂けそうになった。


 女。たったそれだけの、簡素な単語。

 やはり自分が妹であるという認識は、されていない。


「マヤ」


 隣のハヤトが、グランから視線を外さずにつぶやく。


「さっき決めたばかりだろ。取り戻すって」

「ええ」


 マヤは頷くと、手に力を込め、腰に下げる刀・紫電を抜いた。

 グランは興味深そうにそれを見つめた。


「秋の忍が使う刀か……さて、それを持って、どうする? 俺の何を取り戻すんだ」


 マヤは汗をにじませる。

 ザイド・オータムのことは、覚えているらしい。

 ならば、どうして――。


 マヤはそこで、ぶんぶんと首を振った。


 今は、考えている時じゃない。

 

「兄さん……いえ、グラン・グリーン」


 マヤの「紫電」から、青白い“魔力”の火花が散る。

 グランはそれに呼応するように、腕を組んだまま“魔力”を放出した。赤いローブと金色の髪が、ゆらゆらと揺れる。


「あなたの記憶を、取り戻すッ!」


 マヤは階段を踏むと、ぱし、というかすかな音と共に一瞬にして姿を消す。

「ライトニングブースト」。彼女が秋の忍里で修行して身につけた体術強化魔法である。


「おおおっ!」


 同時に、ハヤトも地を蹴ってグランへと向かう。


 彼は、それを見て今度こそ、にたりと笑った。


「おいおい。何をいきってんだよ」


 重い金属音が、その場に響いた。


「誰が今、お前らと戦うなんて言った?」

「うっ!?」


 マヤは驚きのあまり、声を上げた。

 自分の全力の斬撃が、グランに止められている。

 それも、人差し指ひとつで。


「くらえっ!」


 遅れてハヤトが攻撃に出る。

 だが、剣を振り切る前にグランは姿を消し、空を斬る結果になった。


「見ての通り、お前たちと俺では、実力に差がありすぎる」


 ハヤトとマヤは、階段のさらに上方をみた。

 グランはすでにそちらまで移動していた。


「お前らは……俺と戦う資格すら得ていない。さっき見せた“魔力”で、その差がわからなかったのか」

「だったら、どうして! はあああっ!『ライトニングブースト』!」


 マヤがかまわず、再度攻撃をしかける。

 超高速で繰り出される剣戟乱舞。グランは余裕顔でそれらをかわす。


「そのレベルじゃ言霊を込めても無駄だ。お前らに自己紹介が済んでなかったな、と思ってな。とっくにご存じだとは思うが、俺はグラン・グリーン。魔王軍の最高幹部ってところだな。お前らが『取り戻す』と言っていたことについて、特に言いたいことはない。何のことだか知らんが、勝手にしろって感じだ」


 マヤが攻撃にテンポを置く。

 グランがその一瞬に気を取られた時、彼の頭上には「空踏み」で飛び上がったハヤトがいた。


「全く、話を聞かない連中だな」


 グランが指を弾くと、強烈な“魔力”の衝撃が起こった。

 ハヤトの体が空中で吹き飛ばされ、天井に打ち付けられた。


「ハヤト君!」


 ほぼ同時に、マヤも壁に突き飛ばされた。

 グランはふっと姿を消し、彼らがいる場所のさらに上部へと移動した。


「聞く気がないなら別に構わん。これから顔見せする、魔王軍の最後の一人も、話を聞かん奴だからな」

「おい、グラン!」


 階段から、ずしずしと言う音と共に、一人の男が降りてきた。

 一歩一歩を踏むごとに、巨体が揺れた。

 なんとか起きあがったハヤトは、その顔を見てはっとした。


 春の都のビジョンで見た、柄の悪い男だ。


「いつまで待たせんだよ! さっさと勇者をつれてこい!」

「ミハイル、こいつらだ。男の方が勇者だ」

「……なかなか、いい女だな。殺してもいいのか?」

「話を聞け」

「さっき、殺してもいいと言ったよな。そうする必要があると、言ったよな。つまりは殺してもいいってことだよな!」


 グランは舌打ちして、踵を返した。


「勇者よ。見ての通りだ。俺やソルテスと戦いたいのなら、そいつをぶちのめして登ってこい。もっとも、どちらにせよお前らの旅は、この塔で終わりだがな。最後まで抵抗するって言うのなら、丁重に扱ってやるぞ」


 ハヤトとマヤは、身構える。


「魔王軍の、新手……!」

「いい、女だなあ。一体お前は、どんな声で死ぬんだ? 楽しみだなあ、オイ」


 魔王軍のミハイルは、拳をばきばきと鳴らした。

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