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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第3話「ハヤトの決意」
15/212

その1

第3話は、物語の全容について少しばかり掘り下げる内容です。

「うーむ」


 隼人はベッドの上で、難しい顔をしながらうなっていた。手にはゲーム機が握られている。

「ベスドラ」のダンジョンは、相変わらず進行していない。ボスが待ちかまえる部屋の、鋼鉄の扉は開かないままである。

 バグだろうか? 隼人はエンカウントを起こしたり、セーブしてやり直したりして試行錯誤したが、やがてゲーム機の電源を切った。


「唯、いるか?」


 隼人は唯の部屋をノックした。明るい声が返ってきた。


「なーに?」

「『ベスドラ』のダンジョンがよう……完全に詰まっちまった。見てくれよ」

「ダメだよ」


 唯は扉をあけた。


「ダンジョンくらい、自分でクリアしなくちゃ」

「そこをなんとか。話が気になって仕方ないんだよ」

「じゃあお兄ちゃん、ちょっとファミブまで付き合って? ゲームとCDを見に行きたいの」


 唯は扉から鞄を出して見せた。隼人は肩をすくめる。


「なんだ、外に出るつもりなのか? 母さんに見つかったら怒られるぞ」

「ちょっとくらいなら大丈夫だよ。お医者さんもたまには外に出て日に当たれって言ってるし」


 隼人は腕を組んだ。


「しゃあねえな」

「やりぃ!」


 隼人は自転車を車庫から出して、唯を後ろに乗せて走りだした。

 自転車が砂利道に入り、がたがたと揺れる。


「大丈夫か?」

「もう、心配しすぎだよ。ちょっと揺れたくらいで死ぬわけじゃないんだから」

「言ったな、この」


 隼人は自転車を立って思い切りペダルをこいだ。

 スピードが上がり、唯がわあわあと騒ぐ。


 二人の乗る自転車は川沿いの土手に出た。


「いい天気だな」

「うん」

「……病気は、どうなんだ? 大丈夫か?」


 唯は隼人の腹に腕をからめた。


「自分でも、わからない。たまに、私の病気なんてうそっぱちで、本当はなんともないんじゃないかとすら思う」

「そりゃ、よくなってる証拠だろ」


 唯は隼人の背中に顔をおしつけ、首を振った。


「ううん。病院で検査するとわかるの」

「……でも、前みたいに、治るさ」


 唯は答えなかった。



 ゲームとCDを物色したのち、二人は本屋をあとにした。

 けっきょく、何も買わなかった。


 自転車は土手を走る。

 川はゆっくりと、小さな音をたてて流れている。


「あっ」


 唯が指を指す。遠目に黒い煙が立ち上っているのが見えた。


「なんだ、火事かな? うちじゃねえよな」

「ううん、違うよ。別の家」


 唯は少し笑いながら言った。

 隼人は眉間にしわをよせた。


「おい、笑っちゃだめだ。他人の不幸を笑っちゃいけない」

「お兄ちゃんって、まじめだよね」

「まじめとか、まじめじゃないとか、そういう問題じゃねえ。他人には他人の生活があるんだよ。きっとあれが火事だったら、その家の人たちはすっげー悲しむよな? だからそれを笑っちゃいけないんだよ」

「そういうのをまじめっていうの」


 唯はまた、隼人の背中にべったりとくっついた。


「おいっ、こぎにくいだろ」

「ふふっ、まじめ、まじめ!……でも、そんなお兄ちゃんが、好き」


 隼人は無言になる。


「どうして何も言わないの?」

「……兄妹に言ってもしょうがねえだろ、そんなこと」

「私たち、血のつながりはないんだよ。だから……好きって言えるんだ」


 隼人は自転車をこぐスピードを早めた。


「お兄ちゃん」


 唯が言う。


「お兄ちゃん」


 隼人は答えない。


「お兄ちゃん、楽しくやろうね」

「ん? 何を?」


 隼人は思わず後ろを見る。


 赤い髪の少女が、乗っていた。隼人は声をあげた。


「お、お前は!?」

「『冒険』」


 隼人は頭を抱える。

 そうだ、俺はなぜ、こんなところにいる?

 どうして何気なく時間を過ごしてしまった?

 もっとやることがあったろう!?


「唯っ! お前は!」

「それじゃあね」


 光があふれた。

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