その7
ミランダとコリンのふたりは、石造りの通路を歩いていた。
「あーあ、どうしてこんなことになるかね、まったく」
ミランダがけだるげに言う。コリンは無視して歩き続ける。
「ハヤトはどこ行ったんだろうなあ。おーい、みんなー!!」
彼女の声はむなしく響いた。
ループするエントランスのドアをくぐった二人は、気づけばこの通路に立っていた。
一度は脱出を喜んだ二人ではあったが、二人の背後には出口がなかった。彼女らはは唐突にその場所にワープしたことになる。
ならばと、続いてハヤトたちが現れることを期待したのだが、一時間、そして二時間ほど待ったところで、「おそらくパーティが分断された」という結論に至った。
「ルーのやつが悪いんだよ。アタシとあんたを並べて、どうしてあんな風にさ」
「私にイライラをぶつけないで。うざったい」
とうとう、コリンが反撃に出る。
「これがソルテスたちの目的なら、奴らの思うつぼ。頼むから、黙って歩いて」
「これが黙っていられるかっての!」
ミランダのイライラは頂点に達しつつあった。
「アタシはあんたとは違うんだよ! ハヤトといっしょにいなきゃならねえんだ! アタシはあいつと……」
「そう思うのなら、急ぐのが一番だと思う」
「あんたには、わからねえかもしれないけどなあ!」
その時、通路の先から何者かが現れた。
緑色の鱗をまとい、は虫類を思わせる外見だが、骨格はほぼ人間と同一。その手には剣を持ち、腕にはバックルをつけている。
リザードマンと呼ばれているモンスターである。
二人はそれを見るや、即座に戦闘態勢に入る。
槍を構えたミランダがタックルをかけ、バックルを構えるリザードマンを壁に叩きつける。
ミランダはリザードマンの右足に槍を突き刺すと、その場からステップして退いた。
すでに、コリンが“魔力”の糸を重ね合わせ、大きな拳のようなものを作り上げていた。
「わかるよ」
リザードマンが消え去ったことを確認したコリンは、唐突に言った。
ミランダはきょとんとした。
「……何が?」
「あなたが、『わからねえかもしれないけど』って言ったこと。ハヤトには、手助けする人が必要。で……できれば私も……そうしたいと、思ってる……から」
コリンはそこで、きびすを返して通路を歩いていってしまった。
ミランダは、頭をぽりぽりかいた。
「さっきの戦闘、アタシら、何も言わずに連携したよな」
「うん。だいたいあなたの動き方は把握しているから、それに合わせただけ」
「なんつーか、アタシらってさ……いや、やっぱりいいや」
「うん、それが賢明。急ぐのが、一番だから」
二人は通路を歩いていった。




