その5
「……どういうことだ?」
改めてエントランスの中央に戻ってきたロバートが、つぶやく。
ハヤトが一人で階段を登り、再度扉を開く。
すると、塔の入り口の扉が同時に開き、中央部にいた一行の背後をみる形になった。
エントランスの先には、自分の後ろ姿が、重ねた鏡のように無限に見えた。
奇妙な光景だった。
入り口と出口が繋がっている。
「こ、これさ……一回戻った方がいいんじゃねえ?」
ミランダが空笑いしながら、ハヤトが閉じた入り口のドアを開く。
エントランスの階段上部に繋がっていた。
「戻る道もなし、か……シェリルさん、何かわかりませんか?」
シェリルは“魔力”の珠を難しげな顔で見ている。
「おそらく、障壁を使って空間を固定した上で、ねじ曲げているのだとは思いますが……はっきり言って完全には理解しかねます。魔法のエキスパートが百人以上集まっても、実行不可能な現象ですから……一体、どうやってこんなものを……」
「あの、魔王が持っていた紅い『蒼きつるぎ』……『紅きやいば』って言ってたっけか? 要するに、ハヤト君の力と同質のものなんだろうな。なあ、ハヤト君……」
ロバートが言い掛けて、やめた。
そう、ハヤトは今「蒼きつるぎ」を使うことができない。
きっと、「つるぎ」があればこの障壁を破壊してしまって済むのだろうが……。
そう思うと、ハヤトは悔しかった。
やはり、この塔は罠だったのだろうか。
「よくわかんねえけど、“魔力”とか障壁がどうたら、って話なら、アタシが『鎧』を使ってみようか?」
「待てミランダ、監視されている可能性もある。あの力はまだ見せるべきじゃない。できる限りいろんなことを試してみよう。そこから活路が開くかもしれない」
ロバートの提案に従い、一行はしばらく、その場を歩いたり、延々とループする階段を登り続けた。
だが、解決策は見えてこない。
「だめだね。やっぱり同じ部屋を行き来してるだけだよ。ああもう、まどろっこしい」
手すりにつけた傷を見て、ミランダがため息をついた。
「んー」
そのとき、ルーが耳をぴくぴくさせながらうなった。
「ルー、何かわかるのか?」
「なんだか、もう少しでわかりそうなの。みんなで、ここをもうしばらく歩いてみるといいと思うの」
「おいルー、アタシたちゃさっきからそれを何度も続けてどうにもならないから、いまこうやって悩んでるんだろ」
ルーはその返答とばかりに、「瞳」の力を発動させた。
彼女の能力は、未来を予見することができる。ただし、たった数秒だけの話だが。
ルーは文様の刻まれた瞳で、階段を見つめた。
「やっぱり、歩くべきだと思うの。まず、ミランダとコリンが並ぶの」
「なんで!?」
「やだ」
二人とも即答したので喧嘩が始まりそうになったが、ハヤトが必死に彼女たちを押さえた。
「まあ、二人とも。ルーはこういう分野に関してはこのパーティで一番勘が鋭いし、能力もあります。……俺たちには時間がないんです。やれることをやってみませんか」
「ちっ、そんな目で言うなよな」
「……ハヤトが言うなら、仕方ない」
ぶつくさいいながらも、二人は並び、階段を登っていく。
「ついてこいよ、デコッパチ」
「私はハヤトの指示に従ってるだけだから」
「ったく、口の減らない奴だね!」
「それはあなたのほう」
「んだと!? お前なあ、いい加減に」
言い合いする二人がドアをくぐると、そのまま戻ってこなかった。




