その2
霧の中は意外なほど短く、数分も歩くと彼らは開けた野原に出た。
空は霧に覆われており、すこしばかり薄暗い。
いくらかの斜面があり、遙か先に、これまで歩いてきた時と同じような霧の壁が立ちこめているのが見えた。
「ここがザイドの聖域なのか? 案外、殺風景だな」
ハヤトがあたりを見渡す。なんてことはない、ふつうの原っぱだ。
魔王軍は。そして、魔王の島への封印を解く宝玉は、どこにあるのだろうか。
「……おかしい」
すぐ横のコリンとシェリルが、顔をしかめていた。
「どうしたんだ、二人とも」
「ハヤト……。聖域は、こんな場所じゃない。もっと“魔力”の輝きに満ちあふれた、神秘的なところのはず」
ミランダが腕を組む。
「じゃあここは、ハズレみたいなもんなのかい? 確かに、いかにも『ここじゃないよ』って感じだけどさ」
「違う」
コリンが地面に膝をおろし、芝を払う。すると、ごつごつとした岩肌のようなものが露出した。ほのかに青白い光を放っている。
シェリルもしゃがんでそれを確認した。
「この地面の術印……矛盾しているようだけれど、確かに聖域のものです」
「じゃあ、やっぱりここが聖域ってこと?」
「そのようです。きっとご神木が抜かれたことで、聖域にも影響が……」
その時だった。彼らのいる場所から南の方角で、桃色の光が立ち上った。ちょうど小高くなっている傾斜の下で、光の元までは見えない。
だがコリンがはじかれるように走り出すのを見て、全員が追随する。
「あの光……春の精霊様の!」
コリンが言いながら、丘へと上っていく。
彼女は丘の一番上で、ふと立ち止まった。
ハヤトたちも、遅れてその場にたどり着く。
「あっ……!」
ハヤトが口を開いた。
光を放っていたのは、春の精霊のご神木だった。
その根元には、魔王軍のビンス・マクブライト、グラン・グリーン、そして紅い髪の少女がたたずんでいた。




