その13(終)
折れたビンスのナイフが、地面へと落ちた。
「やあ、やっぱりねえ」
ビンスが右肩を押さえながら言った。彼の右手は、二の腕から先が吹き飛んでなくなっていた。
「こ、これは!?」
コリンが声を上げる。
ハヤトの体から、紅色の“魔力”が吹き出していた。
彼の体を拘束していた「ドール」は、跡形もなく消え去っていた。
ハヤトは、自分の体から溢れる“魔力”を見て声をあげた。
「なんだよ、これ!? 俺、こんなの出してないぞ!」
「ハヤト、いい感じじゃないか。まさかこんなに禍々しく成長しているとはねえ。印の付け甲斐もあるってものだよ」
ビンスは素早く左腕を振り、“魔力”を練る。
コリンが反応し、なりふりかまわず「糸」での攻撃を敢行しようとしたが、ビンスの「ドール」がそれを防いだ。
「残念。最初から待つだけ無駄だったんだよ。せいぜいそこで僕の『ドール』と遊んでいてくれ」
「ちいっ!」
コリンを後目に、ビンスは練り込んだ“魔力”をハヤトへと向ける。
ハヤトは抵抗しようとしたが、なぜか体が動かない。
「ハヤト。その力は危険だ。君が使うにはまだ早い。だから僕が、君のその力を封印してあげよう。『蒼きつるぎ』も使えなくなるけど、我慢してよ。僕は君のためを思ってこうするんだからね」
「なっ……どういう……!」
ビンスは笑いながら、“魔力”を込めた手でハヤトの胸を突いた。
ハヤトの体に衝撃が起こり、胸に魔法陣のような紋様が刻まれる。
同時に紅い“魔力”が消え、ハヤトは膝をついた。
「ぐあっ……!」
「それでは、ここで決め台詞といこう。それを解除してほしかったら……そして、僕らのことを倒したいのなら、聖域においで。何人になるかは未定だけど、僕たちは、君を待っている」
ビンスは羽織っていたローブをはためかせ、体を覆うようにした。
吹き飛んだ腕が、復活していた。
「それとは別に、ルーちゃんのことを教えてくれる時は、僕一人に頼むよ。どうか、僕一人にね」
「それじゃ、また」と、またも友人と別れるかの如く言い放ったビンスは、その場から姿を消した。
同時に、コリンと戦っていた「ドール」が消える。彼女はすぐにハヤトのほうへ駆け寄った。
「ハヤト!」
地面に伏すハヤトは、薄れゆく意識の中で、悔しげに言った。
「あいつらの目的は、一体なんだっていうんだ……」




