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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第15話「再会」
140/212

その12

「やあ」


 周囲に民家もない、町の外れ。

 腕を組むビンスが、まるで待合わせをしていた友人の到着を迎えるかのように、静かに言った。

 先ほどドラゴンが落ちたはずだが、とくに被害を受けた様子はない。

 ドラゴンの死体も、なぜか見当たらなかった。


「ビンス……!」


 ハヤトは迷うことなく剣を抜く。

 ビンスはおおげさに拍手をした。


「おおハヤト、ハヤト。すっかり勇者さまの顔つきだねえ。元気そうで何よりだ。せっかちさんは治ったのかい?」


 ハヤトは挑発に乗らず、コリンに目配せする。彼女はビンスをにらみつつも、小さく頷く。

 ビンスはそれを見てぱっと笑顔になった。


「かわいい子だね。そのお嬢さんを紹介してくれない」


 か、と言い終わるまでの一瞬の間に、ハヤトが剣の届く間合いまで踏み込む。


 ビンスは特に対応することもなく、彼の周囲を取り巻く障壁が斬撃を防いだ。


「やっぱり、せっかちさんは治っていないらしい」


 ね、と言い切る前に、ハヤトが宙を蹴って上空に飛ぶ。

 後ろにいたコリンが、指をきりきりと動かす。

 地面が弾け、ビンスに彼女の能力が襲いかかったが、彼が手を広げると彼の両横に二体の「ドール」が現れた。

 「ドール」の服に幾筋もの傷がつくのを見て、ビンスは背後にステップする。

 「ドール」二体は、彼がいた場所へと押しつけられ、はちきれるようにしてバラバラに切り刻まれた。


「なるほど、見えない“魔力”の糸、と言ったところか。なかなかいい『ブレイク』能力だね」


 コリンの表情が険しくなる。


 たった一回の攻撃で、力を見抜かれてしまった。


「そうなると……『ブレイク』は三、四回ということになるね。ハヤト、体に何か異変は? 『蒼きつるぎ』は大丈夫かい?」

「よけいなお世話だっ!」


 ハヤトがビンスの背後から襲いかかる。

 ビンスの障壁が、剣をはじく。


「でもハヤト、どうしてさっきから『蒼きつるぎ』を出さないんだい? 早くしろって。チャンスを逃しちゃうんじゃないのかい?」


 ハヤトは、攻めあぐねていた。

 

 アンバーが話したように、魔王軍と「蒼きつるぎ」には、何か隠された大きな関わりがあるのは間違いない。

 ビンスの口振りが、ただただ不気味だった。だからこそ、ドラゴンが見えた際にもすぐには「蒼きつるぎ」が出せなかった。


 町の方から大きな爆発音が聞こえる。

 戦いは優勢だが、まだ被害が出続けているらしい。


 ハヤトがそれに反応している隙を突き、ビンスは「ドール」を二体召還して彼の腕をつかませた。


「ハヤト。手を抜いていると、死ぬことになるよ。もちろん君も。そしてあの金髪のお嬢ちゃんも、ミランダも、ロバートも。そこのかわいい子も。ルドルフ・ザイドも。ザイド・スプリングに住む人すべてが、死ぬことになるよ」

「ハヤトッ!」


 コリンが腕を外にふる。

 しかし、ビンスは動かない。


「お嬢ちゃん。ここからその能力で僕を攻撃したら、ハヤトも巻き添えを食うんじゃないのかい?」

「ぐっ……!」


 ハヤトは悟った。やはり戦いにおいては魔王軍が一枚上手だ。

 このままでは、勝つことはできない。


「……どうしてお前たちはこんなことをするんだ。お前たちは以前、ここを魔族の襲撃から守ったんじゃないのか! なのに!」


 そして、許せなかった。

 ソルテスを信じていた、ルドルフ王。

 そして、シェリル、コリン、ザイドの人々。

 きっとみんなが、彼女を信じていたはずだった。


「ああ、ハヤト。もう打つ手がないんだね。そんな打算もくそもない、ただのつまらない疑問を僕に向けてくるなんて。悲しいな」


 ビンスが残念そうに言った。

 ハヤトも奥歯を噛んだが、ビンスから返ってきた答えは意外なものだった。


「……でも、あの少女のことを教えてくれれば、少し譲歩してあげてもいい」

「少女?」

「ルーとか言ったっけな。魔族みたいな風貌の。僕がペットか? って前に質問した、あの子さ……あいつは、何者だ」


 最後の言葉には、これまで彼が見せたことがなかったほどの迫真さがあった。


「ルーは獣型モンスターの末裔だ」

「違うね、それだけじゃないはずだ。言えよ、彼女がジョーカーなんだろう? それ次第で僕も立ち回りを変えざるを得ないんだ。教えろよ。奴や君が、あの女と通じているのなら、そう言えよ」

「……? 何を言っている?」


 ハヤトが答えられずにいると、ビンスはふっと表情を失わせて、ひとふりのナイフを手にとった。


「本当に面倒だなあ。複雑で複雑で、どこがどう絡まっているのやら、わかりゃしない。本当に、面倒でならないよ」


 ビンスはナイフをハヤトに向ける。コリンが叫ぶが、ハヤトは汗をたらしてそれを見つめるしかない。

 たとえこの状況でも、「つるぎ」を出してはいけない。そんな気がしたのである。


「もういっそ、壊してしまおうか。壊して、しまおうか!」


 ビンスは、ハヤトの胸をめがけてナイフを突いた。


「ぐっ!」

 

 その時。ハヤトの体に悪寒が走った。

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