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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第2話「俺が勇者で妹魔王」
14/212

その5(終)

 少女の目はうすく開かれ、街を見下していた。空に透けているため、投影された映像に近いものだとわかる。


『もう一度言う。これは、宣告である』


 表情の変化はない。抑揚もなく、ただ何かを読み上げているようだった。


「唯!」


 隼人が立ち上がって叫ぶ。

 少女の顔は彼の妹・唯そっくりであった。この夢の中に来る前にも見た赤い髪の彼女である。黒を基調とした服装も全く同一のものだ。


『我は魔王……魔王ソルテス』


 少女から、返事は返ってこない。

 代わりに、マヤが言った。


「魔王、ソルテス……? どういうこと……?」

『知っての通り、かつての魔王は私の手によって滅んだ』


 隼人がマヤの肩をつかむ。


「どういうことなんだ、マヤ!?」

「……彼女は、勇者ソルテス。五年ほど前に『蒼きつるぎ』で世界を救った英雄よ」

「なんだって」


 ソルテスは続ける。


『だが魔王を倒した時、私は思った。自分に勝る力を持つ存在がいなくなった今ならば、この世界を掌握できると』

「唯、答えてくれ! 俺だ、隼人だ!」


 隼人の声はむなしく響く。


『確かに魔王は死んだ。だが、魔王はここに復活を宣言する。私が新たな魔王となり、お前たちを掌握する。この事実を世界じゅうに伝えよ。堅牢を誇ったベルスタの城壁はもろくも崩れた。魔王はお前たちを掌握する』


 空はしん、と静まりかえった。

 マヤが肩をふるわせる。


「そんな……! 『蒼きつるぎ』が現れたのは、これを予知していたっていうの……?」


 隼人は空を見た。

 唯の顔が浮かぶ空を、さっきのレッド・ドラゴンが羽をはばたかせて飛んでいる。

 そこに、彼は見た。

 誰かがドラゴンの背中に立っている。

 赤い髪の、ソルテス。いや……唯だ。彼女はこの場にいたのだ。


 隼人はうつむいて、近くに落ちていた剣を拾った。


「もう、なにがなんだかわかんねぇ……唯……」


 隼人は目を開いた。その瞳は蒼く輝いていた。


「答えてくれよ、唯っ!」


 ばちばちと言う音とともに、隼人の持っていた剣が光を放った。

 マヤを始め、新たな魔王の言葉を聞いていた騎士団の仲間たちは、それを見て驚きの声をあげる。


「『蒼きつるぎ』……!」


 「蒼きつるぎ」が姿を表した。同時に、隼人はドラゴンの飛ぶ方向に走り出す。


「ハヤト君!」


 マヤの制止も聞かず、隼人は猛然と走る。空を見上げると、ドラゴンの腹が見えた。


「おおおおっ!」


 隼人は煉瓦造りの地面を思いきり蹴った。

 青白い光がほとばしり、煉瓦が吹き飛んだ。同時に、隼人の体が上空へと飛ぶ。

 その場にいる全員が目を疑った。青白い光をまとった人間が、空を飛ぶレッド・ドラゴンに向かって飛んでいく。


 隼人はドラゴンの背に着地すると、すぐに赤い髪の少女を見つけた。


「唯、おまえは唯なんだろ!?」


 隼人は少女のもとに駆け寄る。しかし、少女は眼前ですっと消えた。

 辺りを見渡すと、すぐ後ろに彼女が立っていた。

 少女はまるで無関心な様子で、隼人を見据えていた。


「この夢は一体なんなんだ!? 教えてくれ!」


 少女は答えない。


「唯!」


 少女は隼人の必死な表情にを見て、ようやく反応を見せた。


「これは夢ではない」


 その声はやはり、唯そのものであった。


「『蒼きつるぎ』の勇者よ、私は、魔王ソルテスは……いずれこの世界を滅ぼすぞ。止めてみせろ」


 隼人はその様子を見ていて思った。

 唯に似ているが、違う。森野真矢に似たマヤと同じだ。彼女は魔王ソルテスなのだ。


「それが、お前の『冒険』だ」

「なっ……やっぱり、お前!」


 隼人が目を見開いたとき、ソルテスは手から“魔力”の衝撃波を放った。

 隼人の体は、空へと突き飛ばされた。


「ちっくしょおお! 話は終わってねえぞっ! 剣よ、『蒼きつるぎ』よ! お前は、悪しき全てを破壊するんだろ!」


 隼人が声をがなりたてながら叫ぶ。


「だったら……」


 剣が光を増す。ソルテスはそれを見て眉をひそめた。


「力を貸しやがれっ!」


 その瞬間、「蒼きつるぎ」はさらに輝きを増しながら、少しずつ形を変えてゆく。

 剣は刀身が巨大化し、隼人の身長の倍以上もある大剣へと変化した。


「いっけええーー!!」


 隼人は空中でそれを振りかぶり、回転するようにして思い切り一閃した。


 ソルテスはそれを見て、少しだけにやりとした後、瞬時に姿を消した。


 地鳴りのような怒号が、街中に響いた。

 そして、人々は空に見た。


 首からまっぷたつになって消えるレッド・ドラゴンと、蒼く輝く勇者の姿を。

【次回予告】

奇妙な夢は、夢ではなかった。

勇者ハヤトと魔王ソルテス。

少年は、妹を止めようと新たな世界へ踏み込んでゆく。

静かに、しかし確実に、運命は進んでいく。


第3話「ハヤトの決意」

ご期待ください。

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