その9
ミランダは街中を駆けめぐり、モンスターを次々となぎ倒していた。
「ちいっ、雑魚が群れやがって……」
ロバートが彼女の肩に手をおく。
「無理するな、ミランダ。どうやらこちらが優勢のようだ。だいぶ数も減ってきた」
「でも、わかってんだろ。まだあいつがいるんだよ」
二人が空を見上げると、灰色のドラゴンが飛んでいた。
ミランダは、思い切り息をすいこんで言った。
「降りて来い、クソ野郎ッ!!」
それに反応してか、ドラゴンから一人の男が飛び降りた。
地面へたどり着く直前に“魔力”が衝撃を吸収し、男はふわりと着地した。
「ご指名ありがとう、ミランダ。久しぶりだねえ」
ビンス・マクブライトはにやりと笑みを浮かべて手をひろげた。
ミランダとロバートの二人は、武器を構える。
「ビンス……。やっぱり生きていやがったか」
「当たり前じゃないか。君を置いて僕が遠くにいくはずないだろう」
ロバートが間髪置かず矢を放ったが、ビンスの目の前で静止した。
ビンスはうすく笑いながらそれをひょいとつまんで捨てた。
「やめろよロバート。元々は仲間だろ」
「だが、今はありがたいことに敵同士だ」
「相変わらず君たちはシンプルでいいな。だから魅力的だし……むしょうに壊したくなるんだよね」
「グダグダ言ってんじゃねえよっ!」
ミランダが駆ける。
ビンスは即座に地面に手をつき、ドレスを着た人形「ドール」を召還する。彼の魔術はこれを操るものである。
ミランダとビンスの「ドール」ががちりと組み合う。
「彼女は、前に君たちと戦った時よりも九つほどレベルが高い、僕のお気に入りだ。ハヤトの『蒼きつるぎ』でも、倒すのは……」
ビンスが言い終わる前に、ミランダはドールの体を抱きしめるようにしてへし折った。
「『蒼きつるぎ』が、なんだって?」
「……へえ。こいつは驚いた。どうやら君はぶじ『ブレイク』したらしいね」
「そういうこった。能力は秘密さ」
「別にいいさ。それがわかっただけで十分だからね。とりあえずミランダ、君はしばらくそこに寝ていてくれ」
「ミランダ!」
ロバートが叫んだ時には、もう遅かった。
バラバラになったはずの「ドール」の手足が、彼女の手首、足首をつかんで地面に倒した。
ロバートがリカバリに入ろうとすると、背後から別のドールが現れ、彼を拘束した。
「くそっ!」
「ロバートは反応がだいぶ遅いな。君はまだと見た。これで用事は済んだ。また会おう」
ビンスはその場に手をつくと、瞬時に姿を消す。
同時に、空中に待機していたドラゴンが動き出す。どうやら空へと戻っていったようだ。
「くそっ、ナメやがって! ここでアタシらを殺さずに見逃したことを、絶対に後悔させてやるからな!」
ミランダの叫びはむなしく響いた。




