その7
体が街へと引き寄せられていくようにして、落ちていく。
以前にもこんなことがあったなと、マヤは思った。
そうだ。オータムの里にいた頃、いざという時にパニックを起こさないようにと、何度か空中で能力を解除する訓練をした。
だけれど、そんなことをする必要はなかったのかもしれない。
いざという時は今まさに、やってきている。
しかし、どうしても訓練の成果を発揮しようとは思わなかった。
体が、重い。
風がびゅうびゅうと耳に吹き込んでくる。
どんどんと地面が近づいてゆく。
やがてマヤは、目を閉じた。
「マヤーーーッ!」
その時、大声と共に空中へ飛び出したハヤトが、彼女の体を抱き留めた。
二人はそのまま民家の屋根をぶち抜いて落下した。
「大丈夫か!? 一人で無茶するなって!」
ハヤトはすぐさま体をおこし、マヤの無事を確認する。
彼女の瞳からは、涙がこぼれていた。
「ハヤト君……兄さんに、会えた……。兄さん、だった。でも……」
「マ、マヤ……?」
マヤは、民家の絨毯に伏したまま、力なく言った。
「どうしよう、ハヤト君……。兄さん、私のことなんか、知らないって……。私は一体何のために、ここまで……」
「どういう……ことだ?」
ハヤトの質問は、民家の壁を破壊して登場した人骨型のモンスターによって遮られた。
ハヤトは舌打ちし、全身に“魔力”を練る。
「マヤ! モンスターが街中に現れたんだ。一人でも多く助けたい! 今は……今は力を貸してくれっ!」
だが、マヤはすっかり戦意を失っている。
ハヤトは判断する。これは今、どうにかできる問題ではない。
モンスターを両断すると、彼はマヤの肩を掴んだ。
「動けないのなら、ここにいてくれ。後で、迎えにくるから。俺たちは、どちらにせよ君の兄さんの所まで進んでいかなきゃならない」
ハヤトの瞳が蒼く染まると共に、「蒼きつるぎ」が姿を表す。
「だからマヤ! こんなところで、折れるなッ!」
ハヤトはその場を跳躍すると、蒼い光をほのかに残して姿を消した。
マヤはそれをただ、ぼうっと見つめていることしかできなかった。




