その5
街は一瞬にしてパニック状態に陥った。
人々は騒ぎ、少しでもドラゴンたちから離れようと逃げ出してゆく。
ハヤトは、その中の何人かに肩をぶつけられたが、視線をドラゴンから外さなかった。
「あ、あれは……!」
ドラゴンが、何かを足で掴んでいる。
ピンク色の花がついた、樹木だった。
ロバートが声を上げる。
「お、おいあれって! 精霊のご神木じゃないのか!?」
「だれか乗ってるの!」
マヤも同じ方向を見ている。彼女の顔は、みるみるうちにゆがんでいく。
「あ、ああ……!」
ドラゴンの頭上に、一人の人間が乗っていた。
魔術師風の赤いコートを羽織った、金髪の男だった。
マヤが叫ぶ。
「兄さんっ!」
ミランダが反応した。
「なんだって!? じゃああいつが……!」
「グラン・グリーン……つまり魔王軍だっ! あいつら、ここに攻め込んで来やがったんだっ!」
マヤはその場から駆けると、すぐさま「翼」を生やして離陸体制に入る。
「お、おいマヤっ! 落ち着け! 一人で行くのは危険だ!」
ハヤトの制止も届かない。
マヤはドラゴンの元へと一直線に飛び立って行った。
「くそっ! 一体どうすれば……」
その時、再び地鳴りが起こった。
しかし、今回はそれまでのものとは比べものにならないほど大きく、振動も伴っていた。
空を飛ぶドラゴンの一体の上に、一人の女が乗っている。
彼女は体を包み込むようにして“魔力”を練っている。
「さあ……踊りなさい。『サモン・モンスター』!」
魔王軍のレジーナ・アバネイルの発声と共に、街中に無数のモンスターたちが現れた。




