その4
一人の男が、倒れるようにして酒場に入ってきた。
「おい、どうしたんだあんちゃん」
店主が近づくと、男は息を荒くして叫んだ。
「に、逃げろ!!」
「なんだ、酒の飲み過ぎか? 水でも飲むか」
「違うんだ! みんな今すぐ逃げろ! じゃないと……!」
男が言い終わる前に、ずしり、と地鳴りが起こった。酒場の人間たちがどよめく。
ハヤトとマヤは、顔を見合わせた。
二人にとって、覚えのある感覚だった。
それも、悪い意味で。
「やばいんだ……。ドラゴンが……! ドラゴンが空を飛んでるんだよッ!」
ハヤトたちは飛び出すようにして席を立ち、店の外へと出た。
「こ、これは……!?」
街を歩く人間が、全員空を見上げていた。
それに倣うと、夕焼け空にいくつかの輝きが見えた。
ハヤトは思わず声を上げた。
三体の飛龍が、円を描くようにして空を飛んでいたのだ。
「あ、ありゃあ、マジにドラゴンなのか……?」
ロバートがつばをのみ、多少どもりながら言う。
無理もないことだった。ドラゴンはかつて堅守を誇っていた城塞都市ベルスタでも、特A級の危険モンスターとして警戒されていた。彼自身も、ここまで近くで見るのは初めての経験であった。
だが、ドラゴンたちは空を延々と飛び続けるだけで、何をするという訳でもない。
驚いて状況を見守っていただけの人々がそれぞれ、何か行動を起こさなければと思い始めた頃、再びさっきと同じ地鳴りが街中に響いた。
「なんだっ!?」
「し、城の方だ!」
人々の視線がザイド城へと映る。
そして、彼らは見た。
巨大な赤いドラゴンが、城の外壁を突き破って出てくるところを。




