その3
あわてて地下通路を飛び出したシェリルとコリンは、思わず声を上げた。
「ルドルフ様!」
出口付近で、ルドルフが倒れている。彼女たちは彼の元へと駆け込んだ。
ルドルフは腹を赤く染めていた。
シェリルはそれを見るや否や、即座に回復魔法をかけ始める。
「一体どうなされたのです!?」
「は、春の精霊様が……、い、いそげ」
シェリルにルドルフを任せたコリンは、走ってゲートを飛び越え、春の精霊樹のある中庭に入る。
そして、その光景に唖然とした。
「あ……! ああっ……!?」
「それじゃ、ザイド王国一周ツアー無事終了を祝って!」
「ミランダ、その言い方だと旅行みたいだぞ」
「あーもう、いちいちみみっちいやつだねえ。ロバート、だったらあんたがやんな」
「えー、この春の都という、ある意味俺たちパーティの心が通い合った故郷というか、そういう場所に戻って来られたということはだな、大きく意義のある」
「かんぱーい!!」
「まだ言い終わってねえだろ!?」
あの時と同じ酒場で、勇者一行はグラスを打ち付けあった。
マヤとミランダが、瞬時に一杯を開ける。
そして二人同時に言った。
「うまいっ!」
ハヤトはそれを見て、この二人は相性が悪いようで、その実すごく気が合うのではないかと改めて感じた。
マヤがその視線に気が付いた。
「ハヤト君、飲んでる?」
「あ、ああ」
ハヤトはちびちびではあるものの、酒を嗜んでいた。
ザイド王国での旅、その中でもオータムで過ごした忍び里では、夕食と一緒に酒が当然のように出されていた。
長のフローラ婆によると“魔力”の回復を促進するとのことで、ハヤトは半ば強制的にこれを飲むことになった。
その甲斐もあってか、現在彼はなんとか酒を楽しめるようになった。
「うまいな、ここの酒」
「そうね。ベルスタほどじゃないけど、ザイドじゃ一番でしょうね。オータムのお酒はヘンな味だったし」
ハヤトは嬉しかった。
前回ここで醜態を晒したことを考えると、とてつもない進歩だ。
旅中にも機を見て色々な酒にトライしたことも功を奏しているのだろう。
みんなと、楽しく同じ時間が過ごせている。
「ロバート、お肉おかわりするの」
「あっバカ、同じつまみばっかり食べるんじゃねえよ! 順番考えろ!」
「ルーはこどもだから、ちょっとなにを言っているのかよくわからないの」
「そういう時だけ都合良く子供になるな!」
「なに言ってるのロバート? ルーはもともとこどもなの。こども相手に本気になって恥ずかしくないの?」
「あああああ! もうこいつときたら!」
ロバートが頭をかきむしるのを見て、全員が大笑いする。
いつまでもこうであったらいいのに。
彼らがそう思った直後に、事件は起きた。




