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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第2話「俺が勇者で妹魔王」
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その4

「な、なんだ、ありゃあ!」


 隼人は思わず大声をあげた。まるで巨大な建造物が動いているようだ。

 大きなかぎ爪が門をもう一度つぶし、今度は姿が完全に見えた。


「レッド・ドラゴンだ!」


 誰かが叫んだ。隼人は目をみはった。

 確かにそうだ。彼が映画や漫画を通して見たことのある、ドラゴンであった。


「誰か、魔術師はいる!? 私たち第四師団をあそこに送って!」


 マヤが叫ぶ。ほかの白い服の連中が声をあげた。


「無茶だよ、マヤさん!」

「でも、門が壊されたのよ! 特A級緊急事態だわ!」


 白い服の「騎士団」はごたごたと揉め始めたが、そこに、一人の壮年男性が現れた。


「何をやっとるか!」


 彼の一喝で全員が黙った。男が続ける。


「こういう時にこそ人民を守るのが我らベルスタ騎士団であろう。魔法が使える者は第四師団を門の前へ送って『壁』を作れ! レッド・ドラゴンの得意とする攻撃は、第四師団の『壁』があれば全て防げる! 我らはそういう訓練をしてきた! 一撃食らわせて追い払え! 第二、第三は場内調査! スパイがいるかどうか調べろ! 第五は……」


 男は指示を叫ぶようにして続ける。次第に騎士団の人間たちは冷静さを取り戻し、それぞれ指示された任務へとつく。


 マヤは数人の団員とともに一カ所に固まっていた。隼人は彼女のほうへ向かう。


「マヤ! お、俺はどうすれば……」


 マヤは隼人の手を取った。


「一緒に来て。ハヤト君の『蒼きつるぎ』なら、あいつも倒せるかもしれない」


 その言葉に、隣にいた男が反応した。


「『蒼きつるぎ』だって? 勇者ソルテスの?」


 マヤは首をふる。


「ソルテスじゃない。彼はハヤト。新しい勇者よ」

「ソ、ソルテスって?」


 マヤは答えずにフードをかぶった男に指示を出した。

 目の前が光に包まれた。


 ばし、と空気がはじける音とともに、目の前の景色が変わった。

 さっきの城門付近だ。周囲に人はおらず、すでに逃げてしまったようだ。露店などはそのまま放置されている。

 すぐに、マヤが声をあげる。


「ミレッジ、ガウェイン、サンダース! 後ろに建てるわよ!」


 三人が返事するとともに、青白い光を手に出し始めた。例の“魔力”というやつだ。

 隼人が後ろを振り返ると、目の前に大きな鱗が見えた。

 ドラゴンの足であった。


「う、うわあああっ! でけえっ!」

「マヤさん、いけます!」


 ミレッジが言う。頷くマヤも同じように“魔力”を練っている。


「いくわよ! ドラゴンの口が開くのにタイミングを合わせて!」


 上方で、ドラゴンの口がかぱりと開いた。


「今よっ! 『ウォール』!」


 マヤたち四人が“魔力”を伴った手を全面に掲げると、四人の“魔力”が合わさり、大きな半透明の壁がどんと現れた。同時に、ドラゴンの口からごうと真っ赤な炎が出た。


 ドラゴンの顔付近で爆発が起き、地鳴りのようなうめき声が辺りに響いた。びりびりと地面が揺れ、外壁が少し崩れた。


「やった!」


 マヤは顔を明るくさせたが、すぐに「壁」は砕け散った。ドラゴンがその太い尻尾で壁を攻撃したのである。門の周辺も吹き飛んだ。

 同時に強い風が起き、隼人たちは地面に叩き伏せられた。


 ドラゴンは羽を広げて、宙に飛び立った。



 動けるようになった隼人が空を見あげた時には、ドラゴンはすでにかなり上空へと昇っていた。


「に、逃げたのか?」


 隼人の質問に、マヤは表情を曇らせる。


「そうであってほしいけど……違うみたいね」


 ドラゴンは羽をばさばさと広げ、街を旋回する。

 騎士団の男たちが声をあげる。


「なぜだ!? ドラゴンは本来、臆病なモンスターのはず。一撃食らわせれば、驚いて逃げてしまうことがほとんどなのに」

「見ろ、ドラゴンが!」


 ドラゴンは上空で口を開いた。


「みんな、伏せて!」


 マヤの声とともに、ドラゴンが火の玉を発射し、地面がどかんどかんと揺れた。


 隼人は恐怖で何がなんだかわからなかった。

 ドラゴン、そして炎に包まれる街。

 なんて嫌な夢なんだ。

 だが、逃れられない。



 音がやんだ。隼人たちは上体を起こした。


「これは……!」


 誰もが声をあげた。街には、まったく被害がない。

 だが、景色が変わっていた。さっきまで街全体を包んでいた外壁が、完全に崩壊している。


 どおお、と、波のようになった人々の声が聞こえてくる。

 街全体がパニックに陥っているのがよくわかった。


『これは』


 その時だった。空から、声が響きわたった。

 人々の声はやがてやんだ。


『これは、宣告である』


 年端もいかない少女の声だった。しかし、その口調は恐怖を覚えるほど、厳かであった。

 隼人が反応して上空を見上げた。

 この声は!


『もう一度言う。これは、宣告である』

「唯!」


 空に、赤い髪の少女の姿が映し出されていた。

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