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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第14話「冬山に想う」
128/212

その10(終)

「わー!」


 ルーが目の前の光景にはしゃぐ。

 ミランダが外套のフードを取った。


「……すっげえ」

 

 青い空。

 春の都。

 夏の砂漠。

 秋の忍び里。

 そして、それに取り囲まれるようにしている、白い霧。


 ザイド大陸の全景が見渡せた。


 一行は、冬山の頂上へとたどり着いた。


 ロバートが口笛をならす。


「寒さも吹っ飛ぶ光景だな」

「……俺たち、ここを全部旅して来たんですね。ほんとに、ほんとにすごいや」


 ハヤトは、感慨深そうに言った。

 ミランダがそれを聞いて彼に抱きつく。


「んーハヤト! どうやら完全に復活したみたいだねえ! 心配したんだよ」


 マヤが彼女の肩に手をかけた。


「ちょっとミランダさん。ハヤト君はまだ病み上がりなんですから、あまりひっつかないようにしてください」

「そんなこと言って、本当は自分が一番ひっつきたいくせに」

「ん、んなっ!? そっ、そんなわけないじゃないでふか!」

「マヤ、噛んだの」


 わいわい騒ぐ三人を見て、コリンがちょっぴりもじもじしていた。

 シェリルがそんな彼女の様子に気づいた。


「コリン、どうしたのですか?」

「い、いや。なんでも」

「もしかして、あの輪に混ざりたいんですか?」


 コリンの肩がびくんとはねる。


「ち、違うよっ!!」


 シェリルはにっこりと優しく笑う。


「そうですよね。コリンは早く城に帰りたいって、何度も言ってましたもんね」

「そ、そ、そう。これでやっと帰れる。せ、せいせいする」


 近くで見ていたロバートは思わず「鈍すぎる……」とつぶやいてしまった。


 ハヤトは騒ぎながらも、景色を見続けていた。


 なんて。

 なんて、きれいなんだ。




『これで契約は済んだわ。ザイドの四精霊の名において、あなたたちに、聖域に行く資格を与えましょう』


 精霊が、少し不満げに言った。右腕が完全にもげてしまっているが、“魔力”が周囲を取り巻き、少しずつ再生しているようだった。


 ハヤトは頭をかいた。


「すみません。腕、斬りとばしちゃって」

『いいの。そのくらいできる人でなければ、どちらにせよ契約するつもりはなかったから。「蒼きつるぎ」、確かに見せてもらったわよ。ソルテスみたいなスマートさはないけど、筋はいいわね』


 ハヤトはその名に反応する。


「ソルテスは、俺より強かったですか?」

『さあね。「蒼きつるぎ」はもともと無茶苦茶だから、どっちとも言えないわ。そんな神妙な顔してないで、さっさと聖域に行きなさい。それが目的なんでしょう?』

「は、はい」




「蒼きつるぎ」が出現する際に、ハヤトはふと考える。

 妹も、ユイもこれを使っていたのだと。




「君には、謝らなければならないな」


 秋の里を起つ際、忍び頭のロックが言った。

 

「拙者たちだけでは解決できぬ問題だったように感じる。先の非礼を詫びさせてくれ」

「いえ。そんな。どちらにせよ、俺たちはアンバーさんを引き留めることができませんでした。謝るのはこちらの方です」

「君があの時に何を見たのか……は、問わぬことにしよう。ただ、里を救ってくれてありがとう。アンバーが『忘れよ』と言ったのだ。それに従うことにするさ。では、達者でな」



 罪悪感で、いっぱいだった。

 自分が見たことを、彼に説明することができなかった。


 ここに来てから、わからないことだらけだ。

 そう思った。


 つらいこともたくさんあった。

 死にそうな目にも、何度もあった。 


 この先にも、きっと同じようなことが……いや、それ以上に辛いことがたくさん待っているのかもしれない。


 それでも、ハヤトはこれを投げ出してしまおうとは、全く思わなかった。


 自分の知らないところに、こんなにも綺麗な世界が広がっていて。

 それを、壊そうとしている連中がいる。


 その首謀者が妹であることに、最初彼は困惑していた。

 なぜ、どうして。どんな理由があって。

 全くもって理解できない。 


 だが、それ以前に。


 兄として、言ってやらなければ。

 「おまえは一体、何をやっているんだ」と。


 彼女の考えは、会わねば理解できない。

 だが、それ以前に。


 人様の世界で、何やってんだ。

 こんな綺麗な世界に、何をするんだ。


 言ってやらなければ。

 怒って、やらなければ。

 自分が、行かなければ。



 ハヤトの決心はもう、明確になっていた。

 

 

「ハヤト、山を降りる準備を。まずは春の都に戻って、ルドルフ様に報告してから、聖域に出発するから」


 コリンが彼に言った。

 ハヤトは頷いて、もう一度景色を眺めた。


 一陣の風が吹いた。

 一緒に飛んだ細かい雪が、風に乗って輝く。

 

 ハヤトはそれを全身で受けてから、改めて振り返った。


「その前に、みんなに話しておきたいことがあるんだ」


 ハヤトはその日、いくつかの告白をした。

 強い意志を持って、前に進んでいくために。


 ユイのことを、強い怒りをもってしかりつけてやるために。

【次回予告】

少年たちは、運命を歩いていく。

悪意が道を作り、新たな運命へと導いていく。

それぞれの再会は、いったい何を生むのだろうか。


次回「再会」

ご期待ください。

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