その8
ルーは、いらついていた。
「翼」を生やしたマヤが、空を飛び回る。少しずつ力の使い方を理解してきたのか、前よりもスピードがあがっているような気がする。
「鎧」をまとったミランダが、ハヤトを守りつつ精霊に攻撃する。魔法の干渉を受けなくなったこともあってか、以前よりも大胆に攻めている印象だ。
ルーは思った。
なんで、自分だけ。
どうして、自分にだけハヤトを守る力がないのか。
ルーは祖母の言葉を思い出していた。
「“魔力”の強い人に会ったら、絶対に一緒に付いていくのよ」
「強いって、どのくらいの強さなの?」と聞き返すと、祖母は怪しげににやりとした。
「あんたのその耳に、ビビっとくるくらいかな。たぶん一度しかないと思うから、チャンスを逃さないで。そして、その子とずっと一緒にいるの。たとえ役に立たなくてもいい。一緒にいれば、それだけでいい」
おばあちゃん、それは違うと思うの。
ルーは思った。
強大すぎる敵と戦わなければならないハヤトには、サポートすべき人物が必要だ。
それが自分でないという事実は、気づかぬところで彼女の自尊心を深く傷つけていた。
あの屋敷でビビっと来た青年についていく。
はじめは、祖母の言ったことに従っていただけだったのかもしれない。
しかしルーは、それだけのためにこの旅に同行しているわけではないのではないか、と、いつの間にか感じるようになっていた。
マヤでもなく、ミランダでもなく、自分が。
自分が、彼の隣で、一番頼りになる仲間でいたい。
ルーは走り出した。
“魔力”を練る。祖母から訓練を受けていたことや、彼女自身の資質もあって、そのスピードはもはや常人離れしている。
「『インフィニティ・エッジ』」
無数の「エッジ」が彼女の間を取り巻く。ルーが手をかざすと、それらは一直線に精霊へと向かっていった。
だが。
気づいた精霊が腕をひと薙ぎすると、「エッジ」たちは次々に消滅してしまった。
ルーは歯ぎしりする。
どうして。
考えているうちに、三度ハヤトに向けて精霊の魔法が放たれる。
「ハヤト!」
ルーは思わず彼のもとへと飛び出した。
直後、ミランダが現れ、またしてもハヤトの窮地を救った。
ハヤトは驚いた様子で、ルーの体を受け止めて言った。
「何やってんだ、危ないだろ!」
心配、されている。
こんな状態のハヤトにさえ、だ。
「もう、もうこんなの、嫌なの」
ルーの瞳から涙が溢れる。
「こんなんじゃ、ハヤトをお婿さんにできない。ルーは、ハヤトと一緒に戦って、二人で戦果をあげて、そのうち二人で恋に落ちて……」
「ル、ルー……?」
「おばあちゃんのことなんて、関係ないの! だってルーはもう、ハヤトのことが大好きだから! ルーだって、役に立ちたいんだっ!」
ルーの体に、光の亀裂が入る。
彼女はそれを見ると、ハヤトに向けて手をさしのべた。
「来て、ハヤト! ルーに、力をちょうだい!」
二人の手がふれあうと、「蒼きつるぎ」が現れ、ルーに突き刺さった。




